第93話 2歳半編④
アンナは、主にダンシュタで情報収集をしていたらしい。
ダンシュタで一番大きな商会はナッタジ商会。ひいじいさんが作った商会だ。
今は、この商会の会頭がカバヤということになっている。ナッタジ家殺害事件の時、番頭としてダンシュタの商会で留守番をしていた人だ。
表面上は、今、彼が商会の主人すなわち会頭と思われている。
でも、正式には、彼はあくまで代理。番頭のまま。
ちゃんとした、商会の引き継ぎは行われていない。
そのためには、正式な証が必要で、ずっとカバヤはそれを血眼に探しているだろう。もしくは、自身の商人ランクを上げようとしているのか?ゴーダンやアンナいわく、カバヤに商人ランクをあげる才覚はないし、実際評判は底だから、彼が出来るのは、証を見つけることだけ。もしくは、そのまま実質会頭、本質番頭として、一生を終えるか。彼のプライドと商業ギルドの事情が、それを許すかは、謎だけどね。
あの襲撃はナッタジの屋敷で起こったことだし、その方法がおそらく眠り薬を酒に仕込まれてた、ってことで、内部に協力者がいる、ということから、数ヶ月ママを連れて潜伏したアンナ。そして、真相を探るべくダンシュタに戻ったアンナの目の前にあったのは、番頭が会頭のように振るまい、しかも、多くの使用人が入れ替わっていたナッタジ商会。そして、まさかの家畜奴隷を使った商売。
この素早い動きに対応できるほどの才覚を番頭に見いだせなかったアンナは、ママと共に家畜奴隷として潜入し、結局はしっぽをつかむまでは至らなかった。家畜奴隷としてはそもそもナッタジ商会や屋敷に近づけなかったこともあるし、単に赤ちゃんのママと、家畜奴隷としてナッタジに使われる人たちの、できる限りの保護を考え、行動したことから、後手後手に回らざるを得なかった事情、というものがあったから。実際、アンナがいろいろと動いたことで、家畜奴隷たちの待遇は多少はマシになったらしい。屋敷側からも、アンナのおかげで奴隷達の配置が楽になったこともあり、使用人からの信頼も厚かった。あくまでも使用人からのであって、カバヤ一家はアンナの存在すら気づかなかったようではあるが・・・
そんなアンナの目をさけるようにして行われた息子アクゼたちの兇行のおかげで僕やその仲間の赤ん坊たちが産まれた、のは、アンナの一番の後悔だろう。そんな僕を大事にしてくれているアンナには頭が上がらないけれど、複雑、だとは思う。本人にはこんなこと、口が裂けても言えないけどね。もし言ったら、逆の意味で何されるか分からなくて怖い。このパーティ、最強で最凶は間違いなくアンナ、だしね。
まぁ、そんなアンナをはじめとして、みんなが考えている、カバヤの裏にいるのは、ザンギ子爵で間違いないだろう。欲しいのは、その証拠。15年近くたった今でも、それが見つかるかは・・・・
いや、悪さをする時に使う人なんて、そうそう代わりがいるわけはない。
そして、去年、僕を掠おうとしてミサリタノボア子爵邸を襲ったのが、ザンギ子爵であるならば、その犯人はナッタジの襲撃者と同じかそれに連なる者の可能性は高い。
敵の敵は味方。
アンナは、そう言った。
「事情によっては、その裁判にダーを出席させるのもやぶさかではない。」
ゴーダンが、言った。
ジャンは、ビックリしたような顔をする。
「事情、とは?」
「ザンギの手下についての情報が欲しい。それと、ダーやミミの完全なる放棄。」
僕たちの放棄?
逃げ出した、ということが証明されれば、お金を出して僕らを買った子爵の持ち物だ、ということも証明されてしまう。そういうことだね。僕はすっかり自分が誰かの持ち物のままだ、なんてこと忘れてたよ。
「ジャン。おまえの一存でどうこうできる話じゃないのは分かってる。とにかく、こちらの要求は言った。受け入れるか否かはそっち次第だ。持ち帰って、結論が出たら、冒険者ギルドに俺たちの呼び出しをかけてくれ。」
ゴーダンの言葉を受けて、セイ兄がナイフでジャンを拘束していた縄を切った。
ジャンはしばらくみんなの様子を見回し、また、僕のことをじっと見つめていたけど、何かを決断したのか、そのまま黙って出ていったんだ。
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