第87話 2歳編㉑
次の日。
王城です。
下から見上げてたけど、実際に側によると、想像以上にデカい。
基本は石でできてる。
山の上の、湖の中に建つ、でっかい石の城。
僕らは、数人の騎士に連れられて、かなり奥までやってきたよ。
王城に来たけど、おそらくは事務官に会うんだろうね。いちいち、養成校の話に、忙しい王様が出てくるはずないし。理事長っていっても名目だけだろうから、実務の人と会うんだろう。
僕らはそう思って、ほっとした。
どうしてそう思ったか?
だって、ここで待て、て言われた部屋は、明らかに会議室で、まぁ、殺風景だったから。うん。王様が来るような部屋ではないね。
王城、といっても、王族が住んでいる所だけじゃなくて、前世風に言うと、公務員の働く庁舎みたいな役割の場所もあるんだって。
僕らが出されたお茶を飲んでいると、ノックされた。
返事をすると、足首まであるワンピースを着た優男風のおじさんが入ってきた。ワンピースって言っても、女っぽいとかじゃなくて、長衣っていうの?神父さんとかが着るようなおじさんOKなやつ。薄紫色で、腰には金色のチェーンをしている。その上から、ワンピース本体より少し短い、頭サイズの幅の布を被ってる。手には、小脇に書類っぽいものを抱えている。
その人は、中に入ってくると、僕らに座るように言って、自分も腰をかけた。
「宵の明星の皆さんですね。私は宰相のロディッシィ・マカラニオと言います。」
宰相?むっちゃエライ人、だよね。
「宵の明星リーダー、ゴーダンです。」
「あなたが・・・お噂はかねがね。」
宰相さんは、人の良さそうな笑顔を向けた。
「それは、どうも。」
「みなさんそう緊張しないでください。フフ、君がアレクサンダー君か。私の言葉は分かりますか。」
おや、僕にロックオン?
とりあえず、頷いておけば良い?
「フフフ、かわいいですね。それに、きれいな髪をしている。」
キラリ、と目の奥が光ったような気がした。僕は、ブルッとなったよ。この人、なんか怖い。
「そんなに緊張しなくて良いですよ。君のことはワージッポ博士から伺っています。エッセル氏、は分かりますか。」
・・・ドクと知り合い?養成校の話をするなら、先生のドクを知ってても当たり前、だけど・・・とりあえず、普通(?)の2歳児を演じた方が無難、なような気がする。僕は、ママに抱きついて、顔を胸に押しつけ、隠れる様子を見せたんだ。
「おやおや、嫌われちゃいましたか。フフ、まぁいいでしょう。では、早速ですが、お仕事の話をしましょうか。」
僕から視線はどいた気がする。でも、神経はこっちに来てる、よね?
「依頼は旗頭の交換、です。」
みんなに緊張が走った。ピンポイントすぎるよ。
「実は、ワージッポ博士から、旗頭が見つかった、とお話がありましてね。もう20年近く前なんですが、各養成校に結界の魔導具を作成することになりまして、その設計をワージッポ博士にお願いしたんです。各養成校には塔に旗が立っています。その旗が中央かつ一番高い。そこで旗頭に魔導具を仕込み、簡易結界をつくることになりました。有事の時に魔力を流すことにより、進入を防ぐものなんですが、そのために、各校の旗頭を回収し、魔導具を仕込むことになったんです。回収するにあたり、実験に使った魔導具を借り置きし、旗頭改修までの間使用することになったのですが、途中旗頭が消失してしまいました。もともと1年ほどかかる予定での魔導具制作です。借り置きのものでも機能としては問題ないとのことで、なんとなくそのまま放置されていたのですが、このたび見つかったのであれば取り替えよう、ということになりました。本来、このような些事をAランクも含む皆様にお願いするるものではないのですが、物が物だけに信用を重視させてもらいました。この交換はワージッポ博士の監修の下、あなたがた宵の明星にお願いしたい。」
セキュリティ関連だから信用のおける者に任せたい、理屈は分かるんだけど、何で僕らなんだろう。いや、ありがたいんだけど・・・
「あなたがたを推薦したのは、ワージッポ博士です。」
僕らの沈黙をどう解釈したのか、宰相さんは、そう付け足した。
なるほど、ドクが手をまわしたのね。
もちろん否やはないけどね。
謹んで依頼を受けちゃいました。
で、お仕事の話は終わり。
そろそろお暇を、という感じになったとき、コンコン、とノックされたんだ。
失礼、と、宰相さんが、微妙に疲れたような顔をして、ドアを開けた。こういうことって、普通はお付きの人とかするんじゃないのかなぁ?まぁ、この部屋には僕らと宰相さんしかいないから、仕方ないかもしれないんだけど・・・・
「まったく。・・・ご自分のお立場を考えてください、と申しましたよね。」
おや、何かもめてるのかな?
相手の人が何か言い訳っぽいことを言ってるっぽいけど、よく聞こえない。盗み聞きもよくないしね。
何度か押し問答の末、宰相さん、ガバッてドアを開けて、外の人を招き入れた。
その人は、明らかに場違いな人だった。
服装は、赤と黒をベースにした、ゴージャスなもので、形は宰相さんと同じ。宝石か何かしらないけど、ぴかぴかしてる。
そして、頭には小さな冠。
冠だよ。
冠被った人なんて、王様以外にいるのかな?
「おおー。そなたがアレクサンダーか。うんうん。よう似とる。儂はティオジネミアス・レ・マジダシオ・タクテリア。この国の王じゃ。」
なぜだか、直に僕の所に来て、僕を抱き上げながら、その人はそう言った。
どういう状況?僕は目を白黒させたよ。
「ほほ、ええ子じゃ、ええ子じゃ。儂のことはティオちゃまと呼ぶことを許そうぞ。」
何故か高い高いされる僕。ティオちゃまって、許していらないようそんなこと。
「コホン、陛下、お戯れがすぎます。」
咳払いして、宰相さんが言った。難しい顔をして、気の毒に・・・
「何を言っとる。エッセルの後継なら、儂の孫みたいなもんじゃ。のぉ、アレクよ。ホッホッホッ。」
いや、なんでそうなるの?ちょっとひいじいさん、今度は何?
「とにかく。アレク様は困っておいでです。またの機会もありますでしょう、今日の所は仕事にお戻りください。」
宰相さん、僕を王様から無理矢理取り上げ、シッシッと王様を追い払った。
・・・どういうこと?
なんか、王様、残念感半端ないです。
「失礼しました。いつもは沈着冷静なお人なんですが、旧友の忘れ形見のあまりのかわいさに、我を忘れてしまったようです。」
胃を押さえてるね、宰相さん。
なんか、いろいろ気になることとか、ありそうだけど、とりあえず依頼は受けた。このまま、ドクの所で詳しく話を聞こうか。
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