第85話 2歳編⑲
「無理ですよ、忍び込むなんて。」
ミラ姉があきれたように言った。
僕がリッチアーダのお屋敷に来た翌日、宵の明星は再集合したわけだけど、そこで次のターゲットが、各養成校の旗頭だ、とゴーダンが告げたんだ。
「いいですか。養成校と言っても国の施設。将来お国のために役立つ人材を育てるための施設です。部外者が簡単に入り込めるもんじゃないんです。魔導師養成校はワージッポ博士にあらかじめアポを取ってたから入れただけなんです。他の養成校だとそうはいきませんよ。」
そうだよねぇ。いったら幹部候補生養成施設だもんねぇ。そりゃセキュリティだってすごいんだろうなぁ。
「無理だと言ったって、エッセルのじじいは設置したんだろうが。一人で出来てパーティで出来ないなんてこと、あるかよ。」
「エッセル様のことだ、なんか突拍子もないことをやって、とりつけたんじゃないかい?いや、取り替えたって言う方が良いか。」
アンナが思案しながら、言う。
そういや、旗頭って旗を止めるんでしょ?なくなると困るよね。
「ゴーダンさんは魔導師養成校の旗頭をもらってきたと仰いましたが、その代わりはどうしたんですか?」
ヨシュ兄が聞く。うん、僕も気になってた。
「ワージッポ博士に渡されたから付け替えてきた。」
いつの間に・・・気づかなかったよ、僕。なんだかんだ言っても、昔の仲間で阿吽の呼吸なんだろうか?ちょっとうらやましいな。
「では、他のはどうするつもりです?誰かが持っているんでしょうか?」
コンコン
その時、部屋をノックする音がした。
ママが「はい。」と返事をする。
すると、そこにはここの家主であるトーマさんが立っていた。
「失礼、旗頭がどうの、と聞こえたもんでね。入って良いかな?」
一瞬、みんなに緊張が走った。けど、すぐにアンナさんが、どうぞ、と言って招き入れたんだ。
「突然すまないね。立ち聞きしていたわけではないんだが、旗頭云々が聞こえたもんで、姉に言われたことを思い出してね。」
「姉、というとニア様のことですか。」
ヨシュ兄が言った。
「ああ。まだパーメラが小さいときのことだ。パーメラは知っているね。ミミセリアの母親だが。」
僕らは頷く。
「あの子は、ダー君ほどではないが、美しい黒髪でね。その中に銀のきらめきを持っていた。ダー君が夜空の色だとしたら、パーメラは闇色、とでもいうか。その髪色に違わず、強い魔力を持っていたんだけど、彼女は闇を覗く力を持っていたんだ。」
闇を覗く力。これは別に魔界とかそんなものがあるわけではなくて、この場合の闇は未来のことなんだって。そういや、前世の言葉で「一寸先は闇」ってあったな。この闇と同じ使い方なのかもね。人間、所変わっても、発想なんて似通ってる、って最近僕は思うんだ。
「その力の発現か、まだ小さかった、と言ってもダー君ほどではないがね、彼女が10歳かそこらだったと思うけど、母親であるニア姉さんに言ったらしい。『父様の後継者が旗頭を探しに来るから、おじさまに持っててもらって。』とね。」
「おじさま?」
「パーメラのおじは、私しかいなくてね。姉が旦那から取り上げた、と言って、旗頭なるものを持ってきたんだが、見るかい?」
えっと、いいのかな?ひいじいさんの後継者って言ったらママか僕しかいないけど・・・てか、おばあさんてなにげにすごい予言者だったの?確か、ママが産まれた時に『知の精霊の加護を受ける』って言ったという人だよね?
僕らがここに来て、旗頭にされた、鍵の玉を探すということが分かってたってことだもんね。導かれてる、のか、ナッタジ商会をなんとかして、というメッセージなのか。僕はなんとなく、複雑な気持ちだよ。
戸惑う僕らを尻目に、トーマさんはちょっと持ってくるね、と言って出ていった。
さすがに冒険者に押しかけ女房をやっちゃう豪商の娘の弟、やること早い、というか、人の話を聞かない?待てない?というか、まぁそんな感じだね。いろいろ一人で納得しつつしゃべってたけど、それをまとめると子供時代のパーメラさんが言った旗頭がなんなのかをひいじいさんに問い詰めたひいばあさん、隠し持っていた本物の旗頭をひいじいさんから取り上げ、時が来るまで保管するように、と、弟の元に強引に置いていった、ということらしい。ハハ、ひいじいさんも尻に敷かれてたみたいだね。
トーマさんがしばらくして持ってきたのは、色とりどりの丸い石だった。
ゴーダン曰く、魔導師養成校のはグレーというか、玉と同じ色だったというから、こんなに色が違うなんて思ってなかったって。
旗頭は僕らの探す玉より一回り大きい感じ。そして、それぞれのシンボルカラーでできている。魔導師養成校はグレー、剣使養成校は赤、技術者養成校は茶、医療者養成校は緑、治世者養成校は黄色。
ここにあるのは、グレーを除いた4つ。
もともとはひいじいさんがドクに全部渡すつもりだったんだけど、ドクが保管なんて面倒なことはできない、なくしても良いなら預かるが、と言われたためにドクの関係あるグレーだけを渡して、他はひいじいさんがこっそり隠していたらしい。それをひいばあさんにとりあげられて、ここにある、という感じかな?これトーマさん情報ね。
「これは、エッセルの後継者である君たちに返すよ。やれやれ、やっと肩の荷が下りた。姉からの預かり物なんて、いつ暴走するか分からんと思ってたけど、まさかの養成校から盗んだものだったとはねえ。相変わらずエッセルはぶっ飛んだお人だヨ。ハハハハ。」
トーマさんは何故か高笑いしながら、出ていった。
いや、絶対、これ預かってたの忘れてたよね?ここに入ってきたとき、そんなこと言ってなかった?調子良いんだから。
まぁそれはいい。
さて、どうやって、本物と鍵の玉を取り替えるか、真剣に考えるかな。
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