第84話 2歳編⑱
僕は、とっても立派な馬車に乗って、10日ぶりに山を下りたよ。川まで出ると、なんとでっかい船。なんとこの立派な馬車ごと乗り込んだんだ。
お客さんは、僕たちだけ。ていうか、どうやらこれは馬車同様個人所有なんだって。
船で川を下り、対岸の高級住宅街まで直接やってきた僕たちは、そのまま馬車で1軒の豪邸へ。周りも大きなおうちばかりだけど、その中でもひときわ立派なたたずまいの豪邸へ、馬車は入って行った。
「お帰りなさいませ。」
門を入って、まだしばらく馬車で進むと、やっと建物が見えて馬車は止まる。
で、ゴーダンに続いて、ママに抱かれたままに僕たちが降り立つと、玄関口にお仕着せを着たメイドさんたちが一斉に同じ角度でお辞儀をしつつの、第一声だった。
メイド。本物のメイドさん。ずらっと並んでお出迎え、って、何これ?
僕は思わずママにしがみついて、おっかなびっくり。
でも、ママはにっこり微笑んで軽く膝を折った。
そして、僕を抱いたまま、そのメイドさん達の前に進む。
階段を7段ほど上ると大きな扉。そこには執事さんかな、立派な燕尾服を着た人が二人いて、ママがやってくると、うやうやしくお辞儀をしながら、それぞれ左右に扉を開けてくれた。
「ありがとう。」
ママは、軽くお礼を言って微笑むと、扉を入って行く。あ、言い忘れてたけど、馬車から先に降りたゴーダンは、ママに馬車を降りるため手を差し伸べた後、なぜか左斜め後ろから、まるで従者のようについてきている。
なんだこれ?
中に入っても、メイドさんと執事さん。
中央にきれいな服のおじさん、おばさんとおばあさん?
「ただいま帰りました。」
ママが、その人たちに挨拶をする。
「その子が、ダー君?」
おじさんが言った。
誰?
周りにいる人たちは、みんなとってもいい笑顔で僕を見てるけど、まじどういう状況か誰か説明してよ。
「本当にかわいいこと。目元なんかはパーメラにそっくりね。」
一歩前に進んだ、おばあさんがそう言いながら僕をのぞき込んできた。
「抱いても?」
おばあさんは、ママに聞く。ママはもちろん、と言いながら、僕をそのおばあさんに差し出した。
「まあ、本当に美人さんね。こんなかわいい子世界中どこをさがしてもいませんよ。」
「まぁお母様ったら。でも本当ね、なんてかわいいの。」
おばさんも近づいてきて、僕のほっぺをぷにぷにしだした。
・・・
どういう状況?
僕は、助けを求めて、ママとゴーダンを見た。
ママは、ニコニコしている。
ゴーダンは、なんだか少し困った顔。
「母さん、とりあえず中へ。ダー君も困ってますよ。」
まさかのヘルプはおじさんからだったよ。
そうね、どうぞ、とかおばさんとおばあさんは、なんだかはしゃいだ感じで僕をいじりながら、中へと入っていく。
とりあえず連れ込まれた部屋は、大きなソファがいくつかと、でっかいテーブルがある、だけの部屋だったよ。
学校の体育館ぐらいの部屋で、調度品も落ち着いているけど、きっと立派なものなんだろう、と分かるリッチな部屋。きっと、インテリアを替えたらパーティとかもできそうだ。
おばあさんは僕を抱いたまま、大きなソファに座ったよ。
「ダー君でちゅね~。はぢめまちて。ひーひーばあちゃんでしゅよ~。」
座ると、まさかの赤ちゃん言葉で、僕に変顔を見せながら、そのおばあさん、そんな風に言ってきた。
・・・
赤ちゃん言葉で、声をかけられてしまったよ・・・はじめて 、 じゃないかな、冒険者になってからは?
「こんにちは、ダー君。私はダー君のひーばあちゃんの弟にあたる、トーマ・リッチアーダという。リッチアーダ商会は知っているかな?そこの会頭をしている。分かるかな?」
リッチアーダ商会。確かひいじいさんの押しかけ女房だ!てことは、このおじさん、ひいじいさんの義弟?で、おばあさんが、そのお母さん、てことか・・・
「あなたったら、そんな難しいこと言ってわかるわけないでしょ。ごめんねダー君。私たち親戚のおじいさんとおばあさん。分かるかな?」
ちょっと圧の強いおばさん。とりあえず、僕は頷いたよ。
その後、僕はママが泊まっている、という部屋に移動して、いろいろと状況説明を受けた。
僕がいない10日の間にいろいろ進んでいたらしい。
まずは、アンナとゴーダンも面識があった、ひいばあさんの実家へと状況説明のご挨拶。ひいばあさんのママがさっき会ったおばあさんなんだって。
領都での襲撃事件の後、ママが行方不明になっていたことに気を病んでいたおばあさん。その時は、アンナがなんとかママを連れて脱出、しばらくあの森の隠れ家に住んでいたこともあって、リッチアーダ商会としてもママを見つけられなかったんだって。その後、アンナがママを連れて、ナッタジ商会の家畜奴隷として潜入しちゃったから、まったくもって見つけられなくて、今の今まで、ママの生存をあきらめていたらしい。
でも、遺体が見つかったわけでもないから、ママの身分証明書を保管していたらしいよ。半分は遺品のつもりで、置いていたらしい。身分証明書っていうのはギルドカードみたいなものなんだけど、ある程度お金のある人とか貴族とかは、産まれた時に作るものなんだって。指紋じゃないけど、魔力は一人一人同じじゃないから、本人確認の道具として信頼されている。ママもお金持ちの子として生まれたから、当然作っていて、たまたま別荘に他の書類と一緒に保管されていたらしい。ママのだけじゃなくて、他の人のも含め家族の身分証明書があったから、親戚として立ち会った、トーマさんが遺品として持ち帰ってたらしい。ママのお誕生会には、トーマさんはじめおばさんやおばあさん、そのほか何人もリッチアーダ商会から参加していたんだって。襲撃は夜だったから、リッチアーダの人はホテルに戻っていて無事だったらしい。
そんなこんなで、顔を知っているアンナやゴーダンがつれてきてママを紹介するや否や、そういうのが得意な魔導師を呼んで、その身分証明書の人物がママであることが証明された。そして、ママは「ミミセリア・ナッタジ」すなわち、ノアおばあさんの曾孫として、この家に受け入れられた、という状況らしい。
その後、ママは商業ギルドで登録をした。そのまま、商人としてのお勉強をやりつつ、リッチアーダ商会のお手伝いをしている、らしい。で、蛙の子は蛙。はじめてたった数日だけど、なかなかの才能を見せてる、らしいよ。身内びいきがどの程度入ってるかは分からないけどね。
ママのおかげ?で、一応宵の明星のメンバーはこのリッチアーダ邸にお世話になっているらしい。でも、ママ以外はほぼ出ずっぱり。せっかくの王都だし、ナッタジ奪還のための情報収集や根回しをいろいろやってるんだって。10日後の今日、僕が戻るのは分かっているから、みんな今日明日中には集合できるはず、というのが、ゴーダンの説明だったよ。
僕は、その日は、まずは着せ替え人形になって、いろいろ服を着せられた。おばあさんたちが満足いく衣装になると、次々に訪れる「親戚」の人とか、この屋敷や商会で働いている人と引き合わされたり、まぁとにかくめまぐるしいスキンシップに辟易だったよ。僕はこういう場合にどんな反応をしていいか分からなくて、ずっと、アワアワしてたから、なんだか、普通に2歳児にふさわしい様子だった、と、側で見ていたゴーダンが集合したみんなにまじめな顔で報告するぐらいには、僕にとってお疲れな一日になったんだ。
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