第83話 2歳編⑰
今、僕は、ドクの部屋の来客用ソファに座るママの膝に抱かれている。
よくよく考えてみたら、僕が産まれてこんなに離れていたことってないんじゃないかな?10日だもんね。たぶん、夜に離れたのって初めてだ。
約束の10日がたって、みんなで迎えに来てくれるかな、と思ってたんだけど、今日来たのはママとゴーダンのおっさんだけだった。みんな冷たいな、とか思わなくもないけど、それぞれなにやら動いてくれてるみたい。主にナッタジ商会のために。うん、僕から文句は言えないね。
ママは、僕の顔を見た瞬間に「ダー!」と言って僕を抱き上げた。そして、頭に頬をすりすりしてきて、その後はいっぱいキスを降らせてきた。もう、絶対に離さない、と言わんばかりに僕を抱きしめて、今に至る。
きっと寂しい思いさせちゃったんだね。ごめんね。僕は、ものすごくばつが悪く思って、ママの好きにさせてるよ。だって、思いの外、ドクとの時間が楽しくて、夜とかもドクの部屋(教員用に立派な宿舎があるんだ)でいろいろ教わったり、こっちも前世のこととか教えたり、正直寂しく思う暇もなかったんだ。みんな苦労してるみたいなのに、ちょっと反省。
僕がそんな風に思っていたら、
「赤ん坊が何を気ぃつかっとるんじゃい!」
と、ドクに言われた。こういうときはさとりの能力を持つドクに対してムッとしちゃうよ。僕が楽しんでて申し訳ない、と思ってることをばらしちゃうんだもん。
ママに
「ダーが楽しんでたんなら良かった。」
て、にっこり笑って言われて、それが本心だって分かるから、なんだろ、ちょっと恥ずかしい。
ちょっと恥ずかしいな、と思って、ママの服に顔を埋める。と、とっても柔らかくて気持ちいい。
そうなんだ。僕はママを見てびっくりしたよ。
派手じゃないけど、とってもかわいいブラウスとスカートみたいな格好をしていて、その生地が絶対高いよね、っていう感じでふわふわなんだ。生成りのフリフリブラウスにオレンジ色のふんわりスカート、ママの白金の髪にもとっても似合ってて、ものすごくかわいいんだ。どこからどう見てもお嬢様。家畜奴隷の頃の骨と皮だけの時代でもとってもかわいかったけど、今はおいしいものもいっぱい食べれて、冒険者としてもしっかり鍛えてるから、スレンダーでとってもチャーミング。ずっと外にいるからちょっぴり日焼けしているけど、その小麦色の肌はむしろ健康的な魅力に溢れている。冒険者の格好もいいけど、こういうお嬢様スタイルは、もっと似合うね。
でも、なんでそんな格好?
ゴーダンはいつもとおんなじ格好だけど・・・
この僕の疑問は、いまだ解消されていない。
なぜか?
ママが無言で僕を堪能している間、ゴーダンがドクを睨んでいて、ドクはそれを飄々とうけながしているから、なんだけど・・・
「どういうことだ。」
ゴーダンの何度目になるかのこの台詞。
お茶をゆっくり口の中で堪能し
「なんのことかのぉ?」
と、ドク。
ズズズズー
ドクのお茶をすする音。
低級冒険者なら、ちびりそうな視線で、ゴーダンが怒気をたたきつけても素知らぬ顔。
しばしの沈黙。
そして、再び・・・繰り返し。
なんでこういうことになっているのか。
どうやら原因は、僕、らしい。
ついにゴーダンが僕を見つめて、ハァーと盛大なため息をついた。
「だから、どうしてこいつがこういうことになってるんだ、と聞いてるんだ。」
そういいつつ、僕を指さすゴーダン。人に向かって指さしちゃいけないんだよ、それともこっちの世界ではOKなの?
「こっちの世界でも、人を指さすのはけんかを売る行為じゃぞ。アレクよ、こんな大人になるんじゃないぞ。」
僕に向かって、肩をすくめながら、ドクが言った。ドクはあくまで僕は「アレクサンダー」だ、と言ってはばからない。だから愛称はアレクにすべき、なんだって。僕はダーで十分、なんだけどね。
「ダーはダーだけどアレクサンダー・ナレッジでいいんだよ。」
急にママがそんな風に言った。
僕が首を傾げると、
「おばあさまがそうしなさいって。」
?
誰?
「それは後でいい。とにかくワージッポ博士、こいつの魔力をなんとかしろといったはずだ。悪化させてどうする。」
後でいいってなんだよ。てか、悪化?僕が?
「そんだけ、素晴らしい才能なんじゃ。ちょっと指導しただけで、魔力量も操作もぐんぐん上達する。先が楽しみじゃわい。」
え、え~っ、全然気づかなかった。僕、また魔力量増えてるの?ドクのおかげで、いろいろ上手に使えるようになったし、これ以上魔力押さえ込むのは体の方が危険だから、魔導具でなんとかする、と、聞いてたけど・・・
ドクは、僕のそんな心の声に頷きつつ、頭をかいた。
「いったん魔導具はできたんじゃよ。一昨日のベースで抑えきれる魔導具はできた。じゃがのぉ、昨日ちょっとがんばったじゃろ?アレクの才能が儂の想像を超えてもた。ハハハ。今、魔導具の改良中じゃよ。あと3日、いや2日でいい、アレクを預けてくれ。今の量にあった、あらたな魔力制御装置をつくってみせる。」
「・・・また、ダーと離れるの?」
あ、ママが泣きそう。
さすがに、ドクも申し訳なさそうにする。
「一応曲がりなりにも出来てるんだろ?それはまったく役に立たないのか?」
「いや、多少、漏れる程度じゃ。」
「多少って。」
「・・・ここに来たときのアレクぐらい、かのぉ。」
「はぁ?」
「じゃがそりゃ、儂のせいじゃない。アレクの成長が半端ないんじゃ。」
「・・・・で、たとえばここにダーを置いていったとする。おまえさんがこの子にまた教授してまた魔力が増えて、新たな魔導具が役立たずになる、なんてことはないだろうな。」
「・・・・・」
「おい!」
「そんなことは分からん。その子はこっちの想像を超えないとはいいきれん。」
「だったら却下だ。」
「しかし・・・」
「ダーがいなけりゃ、魔導具は作れないのか。」
「そんなことはないが・・・」
「なら、余裕を持った魔導具を作れ。」
「もうちょっと、アレクと魔法の創造を、じゃの・・・」
「ダー、おまえはどうしたい。このじいさんとママと、どっちをとる?」
なんつーこと言うんだ!僕がママ以外の選択肢はないこと知っててこのおっさんは・・・
僕は、ため息をつきつつ、ママを抱きしめる。
なんともなさけない顔のドク。ごめんねぇ。ドクとの時間は楽しいけど、これ以上ママにさみしい思いはさせられないよ。
「何も今生の別れじゃないんだ。まだ2歳のガキをてめえの楽しみで引っ張り回すんじゃねえよ。とにかく、今、間に合う道具を頼む。」
「・・・アレクよ、また遊びに来てくれるかの?」
「うん。ドクも大好きだよ。」
僕が言うと、びっくりだ。ドクがでっかく目を見開いて、無言で涙をながしちゃったよ。ちょっと、てか、かなり怖い・・・
「はぁ、で、もう一つの件だが。」
ゴーダンがため息をつきつつ、そう言った。
あ、忘れてた。そろばんの玉・・・
「はぁ・・・旗、じゃよ。」
「旗?」
「ここには5つの養成校があるじゃろ。それぞれの校舎にそのシンボルの旗が立っている。その旗頭、あれがそうじゃ。」
えええーー
いや、あっさり見つかったよ。
でもさ、どうやって、とるわけ?
各、養成所って独立してるはず。
「ここのは、勝手に取っていっていいぞ。ほれ。」
用意していたのか、ドクはゴーダンに鍵を渡した。
「屋上の鍵じゃ。好きに取ってこい。」
・・・
とりあえず、1つはゴーダンが無事確保。
さてと、他はどうしようかな。
とりあえず、一度みんなで集合して作戦を練ることにして、僕らは、ママ達が乗ってきた馬車で帰ることにする。
?
帰る?どこへ?
馬車?徒歩じゃなくて?
僕が頭にはてなを浮かべている中、想像以上にゴージャスな馬車に連れ込まれたんだ。
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