第82話 2歳編⑯
ドクのこんな実験は、数日続いた。
僕は怪しげな器具はつけられたものの、ただ寝ているだけだし、結果は教えてくれるし、で、最初の緊張はもうない。ドクを見てると、新しいおもちゃをもらった子供みたいで、何百歳、とか言っても関係ないな、と思っちゃう。
で、ドクに教えてもらったこと。
ひいじいさんは、たぶん団塊の世代と呼ばれる時代の人だったみたい。バリバリの研究畑。これには驚いた。家電とかを設計する人だったらしい。定年退職後はゲーム漬けの毎日で、とにかく新しいものが大好きな人だったって。それで普通に病院で死んだらしい。死因は肺がん。たばこの吸いすぎだ、と知った本人(=エッセル)は一切たばこを吸わなかったらしいよ。
まぁ、普通に生きて普通に死んだ。可もなく不可もなく。子供は息子が1人。まだ結婚もせず、おかげで自分が死んでもすぐには妻は1人にならないから良かった、と思ったって。
それで、ここに転生した。転生した直後はかなり覚えていたけど、こちらの言葉を覚えてしゃべり出す頃には記憶は薄れ、ただ、RPGの主人公に対するあこがれだけが残ったみたい。それで、がむしゃらに鍛え、10歳には生家近くの雑魚モンスターを倒すようになってたんだって。そんな少年だったから、当然成人したらすぐに冒険者になった。そして、ドクに救われた。まぁ、そんな感じ。
前世で設計できるだけの知識があったら、そりゃ、魔導具の理解も早いよね。ひいじいさんは、しばらくは冒険者としてドクを含めたパーティで過ごした。並行して魔導具をドクと開発。この世界基準に合わせたものだけは人にあげたり売ったりしていたって。そのために商業ギルドにも登録。いつの間にか、ナッタジ商会ができていた。その商会設立に貢献したのが国でも有数のリッチアーダ商会。リッチアーダ商会のご令嬢が魔法の才豊かな人で強引にひいじいさんのパーティに入っちゃった。これが、まぁひいばぁさんのニアさんだって。僕のばあちゃんにあたるパーメラさんが産まれたことで、ひいじいさんは一応冒険者は引退。まぁ現実には半引退なんだけど、ね。冒険者を名乗らず、商人エッセルとして世界を股にかけて冒険してた、らしい。その間に会ったのが僕の知っている管理者たち、かな。ゴーダンとかアンナとかもここに入る。そして、ママの1歳の誕生日パーティ。・・・・暗殺された。
うん。濃い人生だね。でも、早すぎる。
ひいじいさんは、きっとこの人生を楽しんで、愛して。
家族も、救った人も、商会も、みんな愛してたんだろうな。
RPGみたいな世界に生まれて、わくわくして、毎日を充実して生きて・・・・
まだ死んじゃダメな人だったんだ。
それをつまんない欲望で、嫉妬で、終わらせられた。
カバヤという人は、小心で卑屈な感じの人だったんだって。ゴーダン達は、いつもへいこらしている彼しか見ていなかった。でも、番頭、てことで下には偉そうにしていたから、よく注意したらしい。ゴーダンやアンナ、それにおじいちゃんのセバスさんなんかは、腕力的にもカバヤより強いからへいこらしてたけど、本当は嫉妬とか憎しみとか、すごかったのかもしれない。
自分はずっと番頭として商会で働いてきたのに、たかがエッセルに拾われた孤児であるセバスさんが、たかが冒険者のセバスさんが、あこがれのパーメラさんを射止めたあげく、将来の店主として皆に尊敬されている、そんな姿に嫉妬をしたのは仕方なかったのかもしれない。
でも、だからって、殺して奪うのは違うよね。
たとえ、その殺しがなければ僕は産まれていなくても、そしておそらくは、カバヤが僕の祖父なんだとしても、僕は、カバヤとその一味を許さない。
ドクにひいじいさんの話を聞く度に、僕は復讐、という昏い思いを強くしてしまうんだ。そもそもママがナッタジの娘だと知れたら、どんなことをしてくるか分からない、それは僕の言い訳かも知れないけど、ママが幸せになる障害は、僕には絶対許せないから・・・
ドクからはドクの知ってるそんなひいじいさんの話を聞くだけでなく、僕のことについてもいろいろ聞いた。僕のことを聞く、というのも変な感じだけど、逆行催眠的な技で、僕の表層に出てきている以上のデータが分かる、らしい。前世でそういう治療景色をテレビかなんかで見た記憶があるけど、本当に体験すると、不思議な感じがするね。
僕は、やっぱりどこの誰か、まではわからない。でも知っている知識から、ひいじいさんより後の時代の人だった、ってことは分かったみたい。うん、僕もそんな気がしてる。
ドクが一番気に入ったのは、スマホとタブレット。あとはスマートウォッチ、かな。ワイヤレス、というのもなかなかに気に入る技術らしい。ひいじいさんからパソコンまでは知っていたらしいけど、生憎こちらでパソコン技術は難しいし、ひいじいさんの知識から魔導具の知識に落とせなかったんだって。でもタブレットとかのタッチパネルの発想はいい、らしい。直感的な操作、というのが魔法との相性にいいんだって。僕は、よくわかんないけどね。ドクが何かを開発できるんなら、それで良し、としよう。
僕は、たぶん若くして死んだ、みたい。少なくとも仕事をしているような専門性は見つけられなかったって。ただ料理とか彫金やフィギュアとか、そういうことに詳しいだろう、と言われた。うん、なんとなく普通に知ってるし。趣味だったのかもね。料理だけじゃなくて、石けんとか編み物や機織りに陶芸とか、とにかく作るものの知識はひいじいさんより圧倒的に多い、らしい。プロと言うよりは、知識をつまんでる感じだそう。
ドクいわく、ひいじいさんより商売に使えるネタは多い、らしい。ひいじいさんの場合、こちらに機械文明を持ち込むようなもんで、ちょっと汎用性に欠ける、んだとか。うん、ママに商会を取り返したら、いろいろ考えても良いかもね。
そんなかんじで、前世ツアーをある程度終えたドクは、改めて、僕の魔力と向き合うことになったよ。若干現実逃避していた、と言ってたけどね。
僕は、考えられないくらい魔力が多い、らしい。
で、年齢を考えるとまだまだ増えるはず。
ドク曰く、魔力はある程度の年齢まで、使えば使うほど増えるんだって。ある程度の年齢=成人、らしい。そこまでに魔力切れを起こすほど魔力を使えば、その増加はさらにドン!てことらしい。
魔力はあってもふつうは魔法は使えない。
魔力を流す道があって、それをゆっくり開いていく。これを始めるのは大体10歳。魔力特化の貴族では7歳ぐらいから英才教育として、これを行うらしい。なぜこの年齢なのか。単純に肉体的に難しいのと、ある程度の精神的な成長がないと、コントロールが出来ないから。
肉体的には、魔力の量によっては、魔力が通ることで肉体の崩壊が起こる可能性がある。
精神的、というのは感情が魔力に直結して動くので、理性がないと泣く、わめく、笑う、といった感情に合わせて魔法が発動してしまう。もちろん自分も周囲も危険。
そういうことで、魔力を流す道が、人間の防御本能的にできたんだろう、とドクは言っていたよ。一種の進化論、だね。
それで、僕。
テレパシー系は生後すぐに使えた。
うん、死にかけたしね。
緊急時、には、そういうこともある、らしい。
防御本能なら、そりゃそうか。
そこで使い続けなければ、普通は使えなくなる。
けど、環境が環境だったから僕は使い続けた。
しかも、前世記憶のおかげで、理性的に処理できた。
普通なら、たぶん、ちょっぴり魔力の扱いがうまくなる素質がある赤ちゃん、で終わってたんだろうね。けど、そこに暴挙が入る。うん。ゴーダンが1歳になったばかりの僕にやった暴挙。ミサリタノボア子爵邸襲撃事件で、僕の魔力目当てにゴーダンが道を開いたこと。ドク曰く、あれは暴挙以外にないんだって。下手したら暴走して体が崩壊または爆発の危機、だったらしい。このことは常識らしく、ママ以外のメンバーによくつっつかれているゴーダンだけど、本人は、僕の魔力を自分が完全にコントロールするつもりだったから、危険はなかったんだって言い張ってる。本当のところは・・・・分からない。
ま、最初のその暴挙から1年。僕は、ゴーダンとかアンナとか、いろいろ魔法の使い方を教えられ、魔物を討伐し、また、前世の知識を活かして魔法の開発なんかもやっちゃって、もともととんでもない量だった魔力がさらに何倍もふくれあがってる、というのが現状。うん、何回か魔力切れの失神も経験したしね。魔力切れを起こすと、急激に魔力量をアップさせることは知られているらしく、でもその反作用、ていうか、魔力の扱いが難しくなって、これまた、肉体崩壊の危機があるから、特に体のできあがっていない子供には推奨されない、とのこと。僕のやってきたこと、ヤバヤバ続きだったんじゃ・・・
そんな魔法の常識とかを教えてもらいつつ、魔法の扱い、特に制御について特訓してもらったよ。魔法はイメージ。これは実感できている。特に、前世での科学の知識と創作物の知識で、すんなりとイメージできるのがいいみたい。詠唱とかも本当はこのイメージ化を助けるためだから、僕には長々としたものは必要ないみたいなんだ。ここで意外と役だったのが前世のゲーム。ほら、ゲームの魔法ってなんとなく身についてるよね。単純なので言えばファイアとかメラとか・・・
どのゲームで何の呪文か、なんてあんまり覚えていないけど、単語と映像のイメージが簡単に結びつく。これがそのままここでの詠唱に使えるんだ。うん、便利だね。これ、ひいじいさんも使ってた技らしく、ドクが僕の呪文を聞いて、懐かしがってたよ。
ただ前世知識が邪魔をする場合もある。ヒーリングがそう。ドク曰く、たぶん僕にはそっち系の才能もあるはずなんだって。髪の中に白金のきらめきもあるからね。でも、僕にしてみたら、傷ついた体がみるみるうちに元に戻る、っていうのは非常識、という観念を超えられない。ヒールとか、そういったゲームの呪文は理屈では分かるけど、よく考えたら、リアル映像なんてないでしょ?敵にやられてグログロの傷口に呪文をかけると肉が盛り上がってみるみる治る、なんて映像はどのゲームでもないと思うんだ。僕が知らないだけかもしんないけど。だからリアルに感じられないし、イメージがうまく出来ない。これを克服したら、きっと出来るようになるはず。うん、ママの治療をしっかり見ていこう。あんまり、傷口とか見るのは得意じゃないんだけど・・・・
ドクの特訓で、僕は魔法の腕をさらにあげたことは間違いないと思う。新しい魔法の作り方はいかに自分で理屈を信じられるか、ということ。それを属性に合わせて組み立てる。僕は多属性を操れるから、その組み合わせは無限大。新しい魔法をドクと開発するのも楽しい時間だね。いろんな魔法を作ったけど、おいおい披露できるだろうね。
で、一番の問題。魔力のコントロール。
結論をいえば、難しい、ということが分かったよ。
出来ないわけじゃないんだ。ただ、全部押さえ過ぎちゃうと、僕の小さな体は崩壊、爆発する可能性が出てきた。うん。肉体の許容量を超えちゃってるみたい。
体の成長と魔力の成長。
どこかで体の成長が追いついてくれると良いんだけど、どちらもまだまだ成長する可能性があるいじょう、無理は禁物、というのがドクの判断です。
そこで、解決策。魔導具でなんとか出来ないか。
ということで、ドクがなんとかしようと魔導具を鋭意開発中、です。
そんな感じで、約束の10日間はあっという間に過ぎちゃいました。
明日は、久々にママ達と会える!
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