第81話 2歳編⑮
ドク(ワージッポ博士のニックネームはこうなったよ)は、ものすごく、マイペース、というか、独特の人だった。
僕はみんなに見捨てられて(気分はこんな感じだよ、まったく・・・)、一人この変人の所に置いて行かれちゃったんだけど・・・
「ホッホッホッ、そう緊張するんじゃないわい。ただちょっと、儂に身をゆだねりゃいいだけじゃ。」
それが一番怖いんだけど・・・
「エッセルのことは知ってるか。おまえさんの曾祖父にあたる人物じゃ。」
僕は頷いた。会ったことはないけど、今僕の中で一番大きな存在だ、と思う。
こんな風に話しながら、僕を抱いたドクは奥へと入って行く。
ドクの部屋(本人は研究室と言ってた。ここの教授、一人一部屋与えられてるんだって。廊下に並んでた扉が一つ一つ教授達の研究室らしい。)は、入ってすぐは応接スペース=みんなとお茶したスペースがある。応接スペースの奥にでっかい机と椅子があって、ここがメインのワークスペース。椅子の後ろはでっかい窓。ドアと窓以外のスペースは本棚みたいなオープンスペースで、本とかなんか分からない道具とかが置いてある。このメインデスクの横、入り口から入ったら右の奥には、もう1枚のドアがある。このドアの奥が「実験室」らしい。手前の部屋と同じか少し広いぐらいのスペースがある。ここには所狭しと怪しげな(おそらく)実験道具が鎮座していた。この2部屋セットが各教授に与えられているんだって。ここは魔法の養成所だから、教授は魔法の先生。研究内容はもちろん魔法。人によるけど、けっこう、というかかなりヤバイ実験をする場合もあり、この「実験室」は馬鹿みたいに魔導具を使ってセキュリティを強化している。外からの潜入もあるけど、中からの爆発とか、その他諸々、ね。人によっては魔改造してるらしく、各人の企業秘密もあるんで、お互いどんな風になってるかは知らないんだって。
「儂の専門は、異世界の魔道具じゃ。」
は?
「エッセルと出会って、道を決めた。奴と会うまでは、半隠居状態だったんじゃが、奴の相談に乗るうちに面白うて、気がつくとここに絡め取られてしもうたわい。ホッホッホッ。」
「半隠居って・・・」
この人いったい何歳だよ。
「年齢か、もうとうに数えてないが、200か300か・・・」
え?
「儂はいろいろ混じっておるからの。普通の人間とはちと寿命が違うんじゃ。儂でも何歳まで生きるかは分からんがの。」
えっと・・・どう反応するか難しいな。この国では人間が主体だって聞いたし・・・
「いらん心配はせんでええ。ちなみに儂の父はおそらく純血の人間。母はやっかいで、少なくともエルフとのハーフとドワーフとのハーフの子じゃった。儂の親の代じゃハーフやクォーターなんぞ珍しくもなかったがのぉ。今でも人種なんて気にせんでええ国はいくらでもある。国はここだけじゃないからの、ホッホッホッ。」
なんというか、僕は世間知らずで、この世界のことをほとんど知らない。改めて狭い世界で完結してるんだな、と、思ったよ。ドクは、教授なんていうだけあって物知りみたい。魔法の先生なんて、1つのことに特化してるから逆に世間知らずの高慢ちきかもなんて思ったけど、そうでもないんだね。
「坊は、エッセルとは随分違うのぉ。」
「ひいじいさん、どんな人だったの?」
「一言で言えばやんちゃじゃな。初めて会ったのは、奴が坊のママぐらいの時じゃったか?奴は冒険者として駆け出しで、しかしすでに名を馳せるルーキーじゃった。それこそCランク冒険者がパーティを組むような魔物を相手にソロで臨むぐらいには、むちゃくちゃな奴でな、まぁそれが成功するかは別の話で、そんなソロ討伐に失敗して死にかけていたところを、儂の知り合いのパーティが見つけ、儂の隠れ家に運び込んだ。目が覚めるまで1月はかかったかのぉ。その間死線をくぐり抜け、奴は前世を完全に思い出したんじゃ。まぁ、それまでも夢の世界、という感じでぼんやりは覚えていたみたいじゃがのぉ。」
ひいじいさんの話をしながらも、ドクは怪しい椅子に僕を座らせた。座る、というよりほぼ寝ているみたいな角度だ。
「儂は、おまえさんらの言うさとりの化け物と同じ力を持っておる。簡単に言えば、人が考えていることを覗き見ることができる。その力で、エッセルの知る知識を自分のものに出来た、ということじゃ。もちろん本人の同意を得てはいたがのぉ。同意がなければ感情レベルでの認識ぐらいなのは、坊も知ってるようじゃのぉ。」
そう言いながら、ドクは僕に怪しげなヘッドセットみたいなのをつけた。そしてドクは自分の手になにやらヘッドセットとペアにして置いてあったグローブを右手にはめる。
「そう緊張せずともええ。これは、脳波の増幅器とその受信器と思えばええ。坊は、前世に思いを馳せて、その風景、生活、技術、なんでもええから、ただ漠然と思うだけで良いわ。これを見せよう、とかそんなのもいらん。ぼぉっと、何も考えんでもええからのぉ。」
その言葉に催眠効果、でもあるんだろうか、ドクがそんな風な言葉を優しく繰り返しているのを聞くとはなしに聞いていた僕は、いつの間にか夢の世界に旅立っていたようだ。
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