第78話 2歳編⑫
宝物を背にし、やつはそこにいた。
ダンジョン。ひいじいさんのロマン。最後の相手。
そりゃ、こいつだよね。
ドラゴン。
うん、ドラゴン。東洋風の竜じゃなくて、西洋風のドラゴンだ。
ドラゴンは山のような、うん本当に山のようで5階建てのビルぐらいの高さに積まれている金銀財宝や宝箱の前に鎮座している。いや、鎮座というか、座ってないね。寝ているよ。
はじめ遠くて気づかなかったけど、長い首が背中に回っている。
それにゴォッて時折聞こえる風のような音、あれひょっとしてドラゴンのイビキじゃない?
ここは、ダンジョンで、この階層はその中でも随分広いみたい。
全体が平らな草原みたいで、かなり遠くに、キラキラ輝く宝の山と、その前の、おそらく寝ているドラゴンらしきものがいるらしい。
この広さ、ひょっとしてドラゴン仕様?
ドラゴン倒せる魔法をぶっ放しても、逆にドラゴンが思いっきりブレス吐いても平気、な、サイズ、とか。
うん、ひいじいさんなら、そのぐらいのてこ入れはしそうだね。
とにかく、寝ているならおこさないように。
僕らは、慎重に、静かに、ドラゴンの元へと近づいた。
うん、無駄でした。
かなり近づき、うん、そのドラゴンを仰ぎ見てびびっちゃうぐらいに近づいたとき、ドラゴンはゆっくりと、背中に回していた首を持ち上げて、こちらを見たんだ。
「小さき者どもよ。その方らが近代の勇者か。よくぞここまで来たと褒めてやろう。グホッホッホッホッ・・・。が、この魔王ドラゴン様の眠りを妨げし愚行を犯すとは、よもや、生きて帰れるとは思ってはなかろうな。グホッホッホッホッ・・・。」
いや、ドラゴンか魔王かはっきりしろよ、と突っ込み待ち?
要素が多くない?無駄にテンション上げてしゃべってると後々恥ずかしくなるよ?
それに勇者って何さ・・・
「魔王に勇者ですか?まるでおとぎ話ですね。」
あぁあ、ミラ姉突っ込んじゃったよ。
この世界、魔王も勇者もいないからね。職業に勇者とか賢者とかそんなのもない。そもそもそういうのは職業じゃなくて称号、かな?一応、ぽいもとのといえば魔導師ぐらい?騎士とかと対になる魔法専門の戦士とか、治療師的な職業だけど・・・魔導師を名乗らなくても魔力を使う人はいくらでもいるからね。戦える人が全員騎士じゃないのと同じぐらい当たり前のことだよね。
そんなわけで、ドラゴンの口上は、ちょっと厨二的で恥ずかしい。みんなも芝居かかってるな、とか思ってそうだね。きっと、これは、ひいじいさんの趣味だ。つきあわされるドラゴンさん、ちょっと気の毒。
僕らのそんな雰囲気に気がついたのか、グホッホッホッホッ・・・と笑っていた笑い声が徐々に尻つぼみになっていく。
「クフォン、クフォン。まぁ、なんだ。おまえらはお宝を盗みに来た悪徳勇者、だろう?そういうのを成敗するのが、我の使命、というか、そういうわけだ。」
いや、どういうわけだよ。
「そして、やることは一つ。覚悟はよいな。」
ブォーーーーー!!!
ドラゴンのやつ、速攻でブレスをぶっばなしやがった!
幸い、というか、僕らは眠っているドラゴンを迂回して、宝の山から玉を見つけられないかと話し合っていて、みんなバラバラと進んでいた。
だから、ブレスが狙ったのは、1人のみ。
うん。僕だった。
僕は、ドラゴンが息を吸い込んだとき、とっさにブレスが来る、と思い、自分の立っている地面を陥没させたんだ。
ギリギリで僕は地面の中に落ち、ブレスはずっと頭上を通っていった。
「ダー(君)!」
みんなの悲鳴のように呼ぶ声が聞こえる。
「大丈夫。」
僕は慌てて、地面を固めて持ち上げ、地上まで戻った。
「ほぉお、さすがは勇者。」
そんな戻ってきた僕を見て、ドラゴンはうれしそうに言う。
「勇者、なんかじゃない!」
「そうか。だが、何でも良いわ。我がブレスを避けるとは上々。さて、楽しもうではないか。」
ドラゴンは、立ち上がると、僕らに向かい、1歩踏み出した。
そこからは長かった。
最初に動いたのは、セイ兄とアンナ。
セイ兄が立ち上がったドラゴンの足に剣戟を与える。
まったく歯が立たず、速攻離脱。
そこへアンナが最大限の炎をたたきつける。
巨体の割には素早い動きで、その炎を避けるドラゴン。炎はその後ろにある宝の山にぶつかり、財宝を焼いた。
グオッ
と言いながら、ドラゴンはその炎の上に乗っかった。自分の体で、燃えるのも厭わず、財宝の火を消していく。
あのお宝たち、本当に大切なんだ。
僕は財宝ごと、ドラゴンに最大級の風の魔法をぶち込んだ。
ドラゴンと一緒に炎まみれの財宝と、その周辺が斜め上へとドッカーン!飛んでいく。
グウォーーーーン
ドラゴンの悲鳴がこだまする。
空の彼方へと追いやったか、そう思ったが、相手もさすがドラゴン、途中で身を持ち直し、バッサバッサと音を立ててこちらへ戻ってきた。
「みんな、財宝を背に戦うよ。」
アンナが叫ぶ。
うん、それがベスト。
大切なお宝めがけてブレスは打てないよね。
戻ってきたドラゴンに、思い思いの攻撃をたたきつける。
僕も、火や風や水、そして土の弾丸も、手加減なしでたたきつける。
魔法耐性があるのか、ほとんど効きやしない。でも、ほとんどだ。
僕の攻撃が当たると、多少の鱗は飛んでいく。その飛んでいった鱗の辺りを、剣士組が素早く切りつけていく。ドラゴンはそれをいやがって上昇。僕は、重力魔法で地面に引っ張り落とす。落ちてきたところを、みんなで総攻撃。
確実に、ちょっとずつでも削っていく。
そんなことをいったいどれだけの時間繰り返しただろう。
ガオーン!
大きな体を振り回すドラゴン。とりついていた剣士組のみんなが地面へと振り落とされる。
バサンバサン、翼を羽ばたかせて、上昇する。
やばい。
目の色が変わっている。
もう、お宝はいらない、そんなことより僕らを吹っ飛ばす。
そんな意志をはっきりと宿している。
やばい、やばい、やばい。
僕の中で、何かが警鐘を鳴らしている。
僕の魔法ですら、ほとんどダメージを与えられない。いや、与えてするからこその、この攻撃か。
僕がびびっている間も、魔法の使えるみんなが魔法を撃ち続けているが・・・
ゴーダンの土は小さな石つぶて。せいぜい視界を防ぐくらいでそもそも届いていない。届いていないといえば、ミラ姉の風の刃も有効射程を離れている。かろうじて届くのは、アンナの炎ぐらい。多少の嫌がらせにしかならない。
僕の炎とか水や風なら届くけど・・・・
もう少し威力が欲しい。
みんなの魔法もそろそろやばいか。
どうしよう・・・
僕が知っている何かはないか?
そうだ。
あれならいける?
一か八か。
「ゴーダン、できるだけ目元を狙って石つぶてを集めて。ママもできるかぎり砂を巻き上げて。とにかく時間をかせいで。」
僕は叫ぶ。この戦闘音の中だけど、みんな聞こえているよう。意識が僕に集中してくれているのを感じる。
二人は間髪を入れず、大量の土を巻き上げて、ドラゴンの視界を防ぐ。
「セイ兄、僕を支えて。」
セイ兄は僕に走り寄り、僕を抱き上げる。ヨシュ兄もフォローに来てくれた。巻き上げられた土を僕の周りから遠ざけるべく、小さな風を起こす。
「アンナ、僕が合図したら、ドラゴンに思いっきり強力なやつを力の限り長く打ち込んで。ミラ姉は、同じ合図で、思いっきり、冷たい風を僕とドラゴンの中間地点へ打ち込んで。・・・よし、いまだ!!」
僕の合図で、二人の魔法が放たれた。
今までで一番強い魔法。その分後がない。
どっちにしろこれがうまくいかないと、僕らは後がないだろう。
僕はタイミングを見計らい思いっきり魔力を放出した。
途中ミラ姉の魔法を巻き込み温度を下げて。
うん下がっていく。急激に下がる。
そう、僕の水魔法はミラ姉の風を受けて急激に冷やされ、氷点下を超えて・・・・
ドラゴンと接触する直前、アンナの炎とぶつかる。
ドッバーン・・・・・
すさまじい爆発。
氷と炎の共演。
相反する力のひしめきが巨大な力を創造する。
しばらく、その巨大な爆発は続き、バリバリと音を立てる。
まるでキノコ雲。
僕は、気がつくとおびえで体が震えている。
それをでっかい体が包んでくれる。
セイ兄はゴーダンからしたら細マッチョだけど、抱かれるとでかいんだとわかる。なんでこんなことを考えてるのか、ハハ、現実逃避かな。
きっと、メンバーはみんなあの雲を見ている。
爆発がゆっくりと収まって、消えつつある雲を。
薄れていく雲。
そこに現れるシルエット。
巨大なドラゴンのシルエットが・・・
まっすぐ僕を見据えるその勇姿。
ああ・・・
僕は絶望する。
ダメ、だったのか。
抱きしめる大きな腕も強ばっていく。全員の緊張と絶望がひしひしと肌を刺す。
雲が完全に晴れて・・・
真っ黒になったドラゴン。
ヒューーーン
一瞬の間があり、
ドッシーン!!
ドラゴンが
落ちた。
落ちた?
え?
え?
やったの?
僕らみんなの力で?
「ウォーーーーッ!」
誰からだったのだろう。
獣のような雄叫びが、凍った空気を吹き飛ばす。
「やった!やったぞ!」
長い長い死闘の末、僕らはドラゴンを倒したんだ。
その後。
魔法を使った面々は、もうダメだったみたい。まぁ、僕がその筆頭だったんだけどね。
ママ、僕、アンナ、ミラ姉は仲良く魔力切れでダウン。
かろうじてゴーダンは気は失わなかったけど、立つこともできない状態だったんだって。
残っていたセイ兄とヨシュ兄の二人は、みんなを柔らかそうな草の生えている場所まで運び、そこでみんなが気づくまで、護衛をしてくれたそう。
といっても、まったく魔物はいなかったようだけどね。
そりゃ、ダンジョンマスターであろうドラゴンを倒したんだ、魔物はもう湧かないよね。
僕は記憶がないんだけど、ゴーダンが完全復活した後、途中で1回起こされたらしい。
リュックから、野営道具を取り出すよう指示され、夢うつつで言われるままのテントとか、食べ物とかを出して、そのまままた寝ちゃったんだって。
しばらく、そうやってテントで過ごしたみんな。
一人復活し、二人復活し、丸一日もたつと、僕以外は復活したんだって。
元気な人は、順番に宝の山に行って、物色だ。
リュックを連れて行って、役に立ちそうなものとか、価値のありそうなものはザックザック放り込む。そうしながら、玉を探す。
気の遠くなるような作業だった、後でそんな風に教えてくれた。
丸三日かけて、物色完了。
一番下の、しかも丸く掘られた穴から、玉は出てきた、らしい。最後の最後だった、とは脱力したセイ兄の言。
なんで伝聞か?
僕は、隠れ家のベッドの上で目を覚ましたんだ。
あれから6日間も眠っていたらしい。
グスン。
僕、むっちゃがんばったんだよ。
頑張って探したんだよ。
それなのに、それなのに・・・・
ラスト1個、見つけるときにいなかったって?
悔しくって、涙も出ないや。
僕が起きた翌日。
悔しがる僕を尻目に、宵の明星は、ダンジョンを後にした。
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