第76話 2歳編⑩

 ひいじいさんのアイディアはそろそろ尽きてる、と思ってはいたんだけど、これはありなんだろうか。僕は、次の階から始まった『世界編』を見て、首をかしげてしまったよ。

 うん、まさに世界編。

 この前が日本編だったから、まぁ、ありなのかな?

 最初に出会ったのは、黙々と靴を作っている小人。ひょっとしてレプラコーン?

お仕事してるのに、邪魔しちゃ悪いね、と、そーっと避けていく。

 しばらくいくと、廃墟?みたいなのがいっぱい。そしたら、さっきのと同じような小人が・・・ちょっと違う?なんだろう?あ、服だ。さっきはとんがり帽子も含めて緑っぽかったけど、今度のは赤い。

 「あの帽子の赤、いやな感じがする。」

 ママが指摘した。

 赤、小人・・・まさかレッドキャップか!確か、人を襲ってその血で帽子を染めるとかいう。ゴブリンの一種ともいうけど・・・・

 「あれ、人を襲うかも。」

 僕は、注意を促す。みんな、警戒を含め、わらわらやってきた小人達を見つめた。

 キィーーー

 突然だった。

 鎌とか、ノミとか、そんな道具を片手に、僕らに襲いかかってきた。

 一人一人は強くない。けど、ちょこまか動いて、死角から上手におそってくる。

 身が軽いみたいで、土魔法で足下を掬おうとしても、全然かからないよ。

 僕のナイフは、まだまだ弱い。動いているものに傷をつけるほどの技はない、ということがよくわかったよ。ママは、短剣でなんとかさばいてるけど、複数になると追いつかない。彼らと1対1なら、なんとかしのげるレベル。僕ら親子は足手まといだ。アンナがママを、セイ兄が僕をフォローする。でも絶対邪魔だよね。

 「セイ兄、アンナ。僕とママを邪魔にならない場所に連れて行って。」

 僕が何か思いついたと思ったんだろう。二人は間髪を入れず、僕らを抱いて、5メートルほど乱戦場所から離れる。

 「二人はあっちをお願い。僕らは隠れとく。」

 ためらいながら、二人は離れたけど、大丈夫。

 「ママ、土魔法で隠れる場所を作ろう。」

 ママの適性は治癒と土。土は、壁とか作るのが得意。守り特化なんだ。僕もできるけど、残念ながら壊す方が得意かな?

 でもママが僕の魔力を使ったらあんな武器なんて歯が立たないシェルターは一瞬でできるよね。

 ママは、僕の意図をすぐに理解して、二人がゆったり入れるシェルターを僕らの周りに作ったよ。屋根までついて完璧。様子が見えないと不安?足手まといさえなければ、他のメンバー、余裕。うん、言ってて悲しくなってきた。僕だって、もう少ししたら、ママを守りながら無双する、予定。できればいいな・・・せめて魔力のコントロールがうまくなれば、乱戦でも魔法を使えるんだろうけど、課題は多いね。

 とか、考えつつ、ママとお茶してたら、外から魔力を感じた。ゴーダンだ。直接壁に力を流して、土を砂に変えていく。うん、さすがに上手。

 「おまえらなぁ。」

 お茶をしていた僕とママを見て、ゴーダンが大げさなため息をついた。

 「みんなの分も用意したよ。」

 ママは、どうぞ、と全員分お茶を出す。

 「さすが、気が利ききますね。」

 あきれるゴーダンをよそに、他のメンバーは、うれしそうにその辺に座り込んで、お茶を始めた。


 その後、廃墟とかの捜索をしたよ。こっそりと玉を隠してるかも、と、思ったけど、さすがになかった。



 その下の階も、いわゆる羽の生えた妖精とか、ユニコーンとか、幻想生物?的なものがいたよ。この世界にもいるんじゃないかな?というのもいた。

 水のダンジョンとかもあって、セイレーンとか、森のダンジョンにはハーピーとかね。あとはグリフォン、ケットシー、キマイラ、ケルベロス・・・なんとなく、こんな姿じゃないの?と、前世で思われてたまんまの容姿、とだけ言っておくね。同じ名前でもこっちの世界のとは、ちょっと違う。

 どれもこれも、僕としては、楽しく見れた。やっつけるかやっつけないかは、襲われるかどうかで決めることにしたよ。しばらく、動物園とかサファリパークを楽しむ感覚で、ダンジョンを降りていく。


 そして55階。

 場所は砂漠。

 遠くに見えるのは、ピラミッド?今度は、エジプト型。きれいな四角錐のピラミッドだ。

 僕たちは、唯一遠くに見えるそのピラミッドに向かって歩いて行った。


 大きなピラミッドが3つ並んでいた。

 そのうちの一番大きなピラミッド、その横に、ピラミッドと同じくらい大きなライオンが座っていた。いや、体はライオンだけど、顔はエジプトのお面みたいな・・・

 「スフィンクス・・・」

 「ほぉー、我を知っているか。」

 スフィンクスは、地を這うような声で言った。

 みんな、緊張して、スフィンクスを見る。

 「してみると、玉を求める者か。」

 「玉を持っているの?」

 「然り。玉を所望するか。」

 「もちろん!」

 「ならば、我の試練を受けよ。」

 「スフィンクスの試練って、もしかして・・・」

 僕は、目を輝かせて言いかけた。スフィンクスって言えばあれだよね?

 「サイレント。バインド。」

 重々しくスフィンクスは唱えた。えっ、声が出ない。ていうか、体が動かないよ。

 みんな、僕とスフィンクスの様子を黙ってみてたけど、僕へと魔力が放たれて、あわてて構える。

 「慌てるでない。その者の行動・言動を封じたのみだ。これからの試練、内容を知っている者が口を挟むのは無粋、というものだろうが。」

 ハッハッハッ・・・スフィンクスは、そう言うと、地を振るわせながら笑った。答えを知っている僕が入るのはダメってこと?あれぐらい、みんな大丈夫だよね?念話で答えを教える?僕は唯一動くこの力で最悪なんとかしようと、決意した。

 「言っておくが、念話で答えを教えると、試練は失敗とする。」

 あらら、これもダメなの?

 仕方ない、みんなの善戦に期待、するしかないね。


 「ダーをいじめないで。」

 「解放してほしくば、試練を超えよ。」

 「何をすれば良い?」

 「我が謎に答えよ。」

 「謎?」

 「汝ら、試練を受けるか?」

 みんなは、顔を見合わせている。試練、が分かんないと不安だよね。僕も、あの有名ななぞなぞが、この世界の人に解けるか不安だよ。

 「ダーを助けなきゃ。」

 ママは、悲壮な決意、といった表情でゴーダンを睨むように見つめる。

 「どっちにしろ、やるっきゃないんだろうが。そんな顔せんでもやるよ。なぁ、スフィンクスといったか、その試練、誰がやれとかあるのか。」

 「その赤子を除く全員で臨むことを許そう。」

 「わかった。」

 「なれば、答えよ。『朝は4本足。昼は2本足。夕は3本足。この生き物は何だ。』」

 「は?」

 そういや、こっちに生まれて、なぞなぞ、なんて聞いたことなかったかも。みんな戸惑ってるよ。どうしよう。なぞなぞ、の意味、わかってないんじゃ・・・

 「・・・それはなぞなぞ、ということか?」

 あ、アンナが言ってる?あるのなぞなぞ?

 「なぞなぞ?ああ、じじいがよく言ってきた、屁理屈遊びか。」

 「屁理屈遊び、ですか?」

 「ああ。『触れなくても破ることができるのは何だ。』あのときは堪えたな。」

 ゴーダンが、遠い目をして言った。

 「?それはなんなんです?」

 「フン、約束、だとよ。昔、ちょっとした約束事を破ってな、しかられると思って小さくなってたら、そんな質問をされた。破るのは簡単だが、それで壊れた信頼を取り戻すのは難しい、そう言って、破った紙を突き出されたな。」

 「それは、なんとも・・・。」

 「まあ、退屈しのぎの遊びでやることも多かったけど、微妙なうんちくを入れた言葉遊びをあの方は好んでいたね。」

 アンナも懐かしそうに言う。

 「ということは、あのスフィンクスの問いも、そのようなうんちくある言葉遊び、ということでしょうか。」

 「だったら・・・・


 みんなで、ああだこうだ、言っている。

 スフィンクスは、そんなみんなの様子を無表情で眺めている。

 答えを知ってるだけに、じれったいね。

 あ、ミレ姉、良い線いってる。

 「ひょっとして、朝・昼・夕とは、1日のことじゃなくて、もっと長いスパンでは?」

 そうそう、そうだよ。みんなしっかり考えて。

 僕は、視線を感じた。ママだ。ママが心配そうに僕を見ているよ。

 その視線を感じたのか、スフィンクスが僕に言ってきた。

 「赤子よ。バインドはつらいか。口を出さないなら、バインドから解放してやるが。」

 僕は、うんうん、と気持ちでうなずく。2歳児で立ちっぱはつらいよ。

 ドン、拘束が解けて、僕は尻餅をついた。いったーい!僕が涙目になってるのを見て、ママがこっちに走り寄ってくる。

 僕も、動けるようになって、ママのところへハイハイで近寄る。

 !

 ママが、止まって僕を見たよ。

 「ヒト!ヒトでしょ、答え。」

 ママは僕を見たままそう言った。

 「ほぉ。」

 「赤ちゃんの時はハイハイで4本足。その後は2本足で歩くけど、村でお年寄り、杖をついてた人いっぱいいた。杖をついて3本足。」

 ホッホッホッ・・・

 地面が揺れた。

 「愉快、愉快。そう、然りだ。娘ごよ。よくやった・・・・」

 ハッハッハッ・・・笑いがゆっくりと消えていく。

 ゴゴゴゴゴ・・・・砂埃が下からわく。

 大きな音がして、僕らは耳と目を覆った。


 音と砂埃が消えた後。


 スフィンクスのいた場所は更地になっていて、中央に小さな宝箱がポツンと置いてあった。

 罠を警戒ししつつ、ヨシュ兄が宝箱を開ける。

 そこには、探し求める玉が1つ鎮座していた。


 僕らは、こうしてやっと新たな玉をゲットしたんだ。

 

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る