第74話 2歳編⑧

 「なんだこれは?」

 先に降りていたメンバーがあんぐりと口を開けていた。


 これぞ、ダンジョンミステリー。階層ごとに地形が変わるってやつだね。今まではずっと洞窟っぽかったけど、ここは、違う。まるで森だね。でも、なんであんぐりしてるの?


 「なんで、地下に森があるんだ?」

 ?おや?だってそれがダンジョン!じゃないの?

 「そんなわけあるか。穴を掘ってるんたから、洞窟は分かる。ここは遺跡なんだから、せいぜいがその地形の模倣だろ?近場に砂漠があるし、魔物もそこから来る。だから砂漠までは分かる。なんで、森が出来るほど、木が生えてるんだ?」

 おやおや、それがダンジョン!じゃないんだ・・・

 「これが、ひいじいさんクオリティ。」

 僕は、思わず口にしたら、みんなに注目されちゃった。

 「どういうことです?ダー君の記憶では、こんな風に地形が変わるのがダンジョン、なんですか?」

 「えと・・・まずはじめに言っとくけど、僕、というかひいじいさんとの共通の記憶では、ダンジョン、なんてものは現実にはなかったんだ。」

 「ダンジョンがない?」

 「でも、こうやって再現してるんでしょう?」

 「正確に言うと、フィクション、物語とかの世界にはたくさんあるんだ。男の子はみんなその物語のダンジョンとかに憧れる。ここは、そういうダンジョンの定番っていうか・・・」

 本当は違うけどね。ここより上の階はどちらかというと、魔物リスペクトな感じでとにかく見たいな、ていう魔物を出してきた感じが強い。

 そして、ここまで降りてきて、やっとダンジョン感を出したんじゃないかな?この世界のダンジョンて、ちょっと違うな、とか思ったんじゃない?

 「その定番のダンジョン、というのはどんなものなんだい?」

 「うーん。とりあえず、中なのに外みたい、とか?砂漠だと思ったら、次の階は氷に包まれてたり、その次はマグマ、とか。中にいるのに時間経過で明るくなったり星が出たり、あと、水の中、とかもあるかな?」

 「そんなもんどうやって攻略するんだ?」

 「物語だし・・・」

 「おじいさんは、子供達のためにこれを創った。できないものは創らないと思う。」

 だよね?

 「まぁ、とにかく進まんことには、玉も見つからん。行くか。」

 僕たちは、その森へと踏み出した。


 しばらく行くと、がさごそっと灌木が揺れる音がした。

 僕らは、ゆっくりと、武器を構えて、そちらを見る。

 まずは灌木の中から木の棒が見えた。

 木の棒で、木を確かめるようにがさごそといじっている。そして、その後を棒を持っている手が見え、全体像があらわになる。

 「なんだ、あれは・・・」

 僕よりは大きいけど、子供ぐらいのサイズの茶色いそいつ。ぼろぼろの軽よろいを着て、頭には固そうなヘルメット。

 下から生えている牙は、まるで鬼?そうだ。おなかは出てないけど、仏教画の餓鬼、みたい。

 あれは・・・

 「ゴブリン?」

 「知ってるのか?」

 「うーん、定番の魔物?もちろん物語で出てくる奴。」

 「2本足だし、服を着ていますが?魔物、でいいんだろうか?」

 ?どういうこと?

 「2足歩行で知能があるのならば、とりあずは人扱いする必要があるのでは、ということです。この国にいるとあまり出会いませんが、獣人やドワーフ族、エルフ族など、我々とは異なる人もいますから。」

 え、そうなの?

 「襲ってくるなら、迎撃しますが、人であればそれ相応の対応をすべきだと。」

 そういえば、物語によっては亜人扱いもあったっけ?でも・・・

 「ひいじいさんが創ったダンジョンでしょ?魔物認定で良いと思う。」

 躊躇するみんなの横を抜け、僕はゴブリンの前に出た。


 キィー!


 僕を認識するやいなや、そいつは僕に向かって棒を振り上げ、襲ってきた。

 おっと。

 僕は、いっしゅんドキッとして、固まったけど、なんとかナイフを払った。勢いでこけたけど、そのままクルクルっと地面を転がって立ちあがる。

 セヤッ!

 僕がゴブリンと距離を開けた隙に、セイ兄が入り込んで、剣を振るう。

 ザスッ、と音がして、ゴブリンは地に伏せた。

 しばらくすると、魔石だけが残される。

 体の割に大きめの魔石だね。


 「やっぱり魔物、でいいみたいですね。」

 ミラ姉にみんな頷く。


 ガサガサッ


 その時、少し離れた場所で、また音がした。

 ヨシュ兄がそっちに向かって走る。

 「何匹かいます!」

 僕らは、ヨシュ兄のいる方へと武器を片手に走って行った。


 ヨシュ兄は、ゴブリンに音もなく近寄り、無双していた。うん、アサシンっぽいよね。

 僕らが到着したときには3匹のゴブリンが消えるところだった。


 この階層は森の中でゴブリンと戦う、ということかな?

 だったら、巣があるかもね。

 「巣?」

 「うん。ゴブリンは固まって巣を作ったりして徒党を組むんだ。でも、巣だと上位種がいるかも。」

 「もっと強いのがいるってことだろ。それはいいな。こいつらじゃ、弱い者いじめみたいだからな。」

 ということで、巣を探すことになったよ。

 

 ということで、僕らは森の奥へと探検です。

 時折単体から5匹程度のゴブリンに出くわすけど、簡単にやっつけられる。他に何も出てこないのも不思議だけどね。


 僕らは巣を探しながらも、森だし今日は帰らずに野営する?とかのんびり言いながら森林浴。ずっと洞窟だったから、こういう外の気配は、気持ちいい。まぁ、ダンジョンから出ていないから『外』も変なんだけどね。


 「何か聞こえる。それにくさい。」

 まずはママが情報をキャッチした。

 確かにママの指さす方から複数の気配が感じられる。この辺りは森特有のもわっとした緑と土の混ざった匂いがするけど、それに混じって酸えた匂いが運ばれてきているね。

 僕らは慎重に歩を進めた。


 すると、森の奥に崖があって、そこに洞窟みたいな穴が開いていた。その前には見張りだろうと思われるゴブリンが4匹。だらけた感じで、車座になって、何かを食べている。


 「どうします?」

 「様子が知りたいが、下手にバラバラだと相手が多ければやばいな。ヨシュアが先行しつつ、ラッセイと道を開け。しんがりはアンナ。後は臨機応変だ。」

 ゴーダンにみんな黙って頷く。ヨシュ兄は、音もなく走り去り、瞬く間に2匹の見張りを倒した。続いたセイ兄も、残りの2匹を倒す。

 それを見て残りのメンバーも入り口へ。

 音を立てないように、その洞窟へと踏み入れた。


 洞窟はまるで蟻の巣のよう。たくさんの横穴があって、すぐに迷子になりそう。帰ってこられるように、と、ミラ姉が、曲がり角ごとにナイフで壁に印をつけていく。

 案外、出会う敵は少なかった。その数少ない敵も、見た瞬間に静かにヨシュ兄が狩っていく。

 5分ほどそうやって歩くと、目の前に大きな広場が見えた。

 広場では、2,30はいるだろうか。たくさんのゴブリンが思い思いにくつろいでいた。

 と、こちらに気づいたのか。

 キィーッ、と、一番奥にいたひときわデカいゴブリンがこちらに視線を向け、大声をあげた。

 デカい。他のゴブリンの縦も横も2倍できかないんじゃない?

 他のは骨と皮みたいな体型だけど、あらかにマッチョだし。

 「あいつ、もらっていい?」

 セイ兄がぺろりと唇を舐めた。あらま、随分と溜まっていたようだね。

 「好きにしろ。」

 ため息交じりにゴーダンが言う。と、同時に飛び出した。

 たくさん間にいたゴブリンを飛び越え、踏み越え、一直線にそのデカいゴブリンへ。

 カキン!

 金属音が響いた。

 デカゴブリンは、他の奴らと違って、さびだらけだけど、ものすごくでかい剣を持っていて、振りかぶって打ち付けたセイ兄の剣を受け止めた。

 セイ兄は、すぐさま、パッと離れる。

 デカゴブリンは、力任せに剣を振り回す。

 キイー

 デカゴブリンの取り巻きか、少しマシな装備のゴブリンがナイフっぽいものを上に突き上げ、他のゴブリンに命じたように見えた。それに呼応するように、残りのゴブリンがセイ兄に向かって、棒や剣を振り上げかかっていく。

 させじ、と、こちらも乱入。

 僕のナイフだって、役に立つ。時折、仲間のいないところに向かって火や風の魔法を放つ。

 ナイフは致命傷は無理だけど、魔法は複数ぶっ飛ぶよ。でも、気をつけないと、洞窟崩れちゃう。火が燃えすぎても危険。地形と仲間の位置、そして手加減。僕、随分上手じゃない?

 バシュ

 ちょっと得意になってたら、耳元を風が走った。えっ?と飛び退く。わー、足下に矢がささってるよ。

 「奥だ!奥から矢が飛んでくるぞ!」

 まだ、デカゴブリンと剣を交えていたセイ兄がデカい声で叫んだ。

 幸いこの辺りのゴブリンはほぼ掃討。

 ママとアンナ、ヨシュ兄に任せて、ゴーダンとミラ姉、僕で奥へ進む。


 奥には、今まで同様、棒を振り回す奴がほとんどだけど、そのまだ奥から2匹、弓矢を使うゴブリンが。

 「ダー、弓の奴の足下崩せ!」

 手前のふつうゴブリンを切りながらゴーダンが言う。

 それなら、ママを連れてきてよ、とちょっと思ったけど、がんばって足下を緩くするよう土魔法でシェイク。あ、消えた。

 結果オーライ。ちょっと大きくなっちゃったけど、土の中に落ちてったよ。ついでにその側にいた奴らも、まるでアリクイの巣に落ちるみたいに、て、あれ止まらない。

 弓のゴブリンがいたところを中心にどんどん洞窟が崩れてく。どうしよう。うわぁ、こっちまで・・・・

 うわぁ、吸い込まれる~


 ガバッ、と、ゴーダンに抱っこされる。

 が、止まらない。

 ミラ姉も同じように落ちている。

 抱かれたゴーダンの腕から、力が吸い取られた。

 ゴーダンは何か呪文みたいなのを唱え、周囲に土魔法の力をゆっくりと伸ばしていく。逆回りのように砂が固まっていき、岩のようになっていった。と、同時に僕らの落ちるのが止まる。少し離れて落ちてきたミラ姉がこっちにむかって走ってくる。

上を見上げると、落ちてきたところが随分と上だった。小さく光が見えるよ。


 「おーい!」

 上から誰かの声がする。

 「おーい!こっちは3人無事だ!」

 ゴーダンが上に向かって声を張り上げた。

 無事だけど、どうするよ、これ?周りは真っ暗。

 でもあっちの方から、明るいのが・・・・????

 だめ、火だ!

 僕らはそれをなんとか避けた。

 この真っ暗な中、火の玉が飛んできたよ。あきらかに攻撃の火の玉だ!

 ビュンビュンビュン・・・

 続けざまに、また火の玉が襲ってくる。僕はゴーダンに抱えられて、その火の玉から逃れてるけど・・・

 やられっぱなし?そんなわけないでしょ。

 僕は、火の玉の来る方に向かって、魔法を練り、もっと早くて大きな火の玉を投げつけた。


 ギョアッ?


 へんな声が聞こえて、火の玉が止む。僕らは、声のしたところへ、走って行った。


 大きさはふつうゴブリンか。

 そこにはローブを被ったゴブリンがブスブスと音を立てながら、燃えていた。

 うっ・・・

 自分がやったとは言え、ほぼ炭状態でくすぶっているそれを見ると、胃から何かが戻ってきそうになった。

 そばには、木のロッドだったのだろう。棒の形に地面にこびりついている。

 こういう景色が見えるのが、この体を燃やす火だというのだから、救えない。

 ミラ姉が、そいつに歩み寄った。

 しゃがんで、追悼?じゃないみたいだね。ロッドの先につけられていた魔石?にしてはデカすぎだ。真っ赤になっている石を剣で転がして、僕らの方へ連れてきた。

 赤かった石は、地面に転がった跡を黒くつけながら、徐々にグレーっぽく変色していく。

 ミラ姉は、その石を冷ますため、優しく風の魔法を使った。ある程度冷めたのだろう、その玉を手に取り、僕たちに見せる。


 「やっぱり、間違いありませんね。」

 それは、僕らの求める玉だった。



 その後、僕らは落ちた場所まで戻る。

 さて、どうしよう。

 あれ、出来るかな?


 『ヨシュ兄聞こえる?』

 僕は、念話で話しかけた。

 『聞こえますよ。こちらは無事終わりました。そちらも大丈夫そうですね。』

 『うん、無事。そっちまで登らなきゃなんだけど、リュック落としてもらえる?』

 本当は、中身だけでいいんだけどね。出すのが僕だけってかなり不便。

 ヨシュ兄は肯定して、すぐにドサッとリュックが落ちてきた。


 「どうするんだ?」

 ゴーダンが腕組みしながら聞いてくる。

 「うん。馬車の時と一緒なんだけどね・・・」

 こっそり練習していたんだ。箒はまだ無理だけど・・・

 僕は、リュックに手を入れる。あった。問題は、・・・重い。

 リュックの中にいるときは重さを感じないんだけどね。

 僕がシクハクしていると、出てきた先っぽをミラ姉が掴んで引っ張り出してくれた。


 ドーン


でてきたのは、そう、絨毯です。

はてなが飛んでる二人。ミラ姉にきれいに広げてもらって、約2畳の絨毯になりました。

 「できるだけ真ん中に座って。」

 二人を僕の周囲に座らせる。

 「アブラカタブラ。」

 呪文に意味はないんだけどね、ほら、お約束、というか、気分?

 僕は絨毯に、重力の魔法をかける。

 馬車と違って、柔らかい絨毯は、均等に力を入れなければなかなかまっすぐにならない。これ難しいんだよね。でも、大丈夫。僕は出来る子。

 ゆっくり均等に。魔力が行き渡ったら、慎重に上へ上へ・・・


 スーーーッ


 浮いた。


 絨毯は、ゆっくりと上がっていく。天井にぶつからないようにゆっくりと。

 みんなの見守る中、なんとか、落ちてきた穴の上へ。

 一番の問題はここから。

 上下はまだ大丈夫。でも横はムズイ。

 うわぁぁぁ。

 やっぱり失敗!バランスが崩れた。

 また、穴に真っ逆さま?

 誰かに体を引っ張られた。

 セイ兄?


 他の二人は?


 リュックを抱えたゴーダンは、すぐ側に飛びこんでたみたい。

 反対側に、ミラ姉も無事着地。

 絨毯は、どうやったのかヨシュ兄の腕の中。


 ホッ


 ていうことは・・・


 みなさん、2つめ、全員無事でクリア、です。

 

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