第71話 2歳編⑤

 今、壮絶にもめてます。


 僕らの求める鍵の一部、6つの玉が、ここナッタジ・ダンジョンにあることが判明。ダンジョンに宝箱、の存在しないこの世界。でも、ひいじいさんのロマン的にはダンジョンに宝箱は必須。ないなら創っちゃえ、で、配下に創らせた、までは、理不尽と思いながらも、納得した宵の明星。

 なんだかんだ言っても冒険者。本音は、ちまちま家捜しより、ダンジョンで魔物と戦う方がストレス発散できる、ということらしい。むしろ、ダンジョン素通りで、最下層の隠れ家まで来ちゃったもんだから、みんな消化不良だったんだね。

 だからダンジョンに行って、宝箱探しをすることに問題はない。

 なら、何をもめているのか。それは数分前に遡る。



 「ですから、通常コースとロマンコース、いかがいたしましょう?と言ってるんです。」

 「だから何度も言ってる。通常コースだ!」

 「通常コースは、元々の魔物が溢れるコース。配置と宝箱の設置や罠は仕掛けてありますが、まあなんの変哲もないコースです。一方ロマンコース。先代の指定に従い、未知の魔物も含まれるわくわくが止まらないコース。さて、いかがいたしましょう。」

 「通常コース。」

 「よくお聞きください。いつでも誰でも体験できる通常コース。一方、次代様のためだけに創られた、幻のロマンコース。はて、どちらを選ばれますが。」

 「だから通常コース。」

 ・・・・


 ハハハ、ローディ、そんなにロマンコースに行って欲しかったらそういえば良いのにね。ゴーダンも大人げない。絶対に譲らない二人の不毛な言い合いが延々続いているよ。

 僕としては、一生懸命創ったコース、しかも魔物もオリジナルとあっては、是非そちらに行って欲しいというローディの気持ちも分からなくはない。でも、宵の明星としては、どうやらゴーダン派のよう。通常コースなら、どんな魔物かある程度推測できる。ゴーダンなんかはすでに体験済みだしね。ちなみに出るのは砂漠の魔物プラスアンデッド系、だそうです。上の方でトカゲとかアリクイとかワームとかのいろいろな変種が出て、下に行くほどアンデッドや人の生み出せるもの、たとえばゴーレムとかが出るんだって。でも、ロマンコースにはそういう指針がない。しいていえば指針はひいじいさん。危なっかしすぎる、というのが、5人の意見。


 「おじいさんの創った魔物はここにしかいないんでしょ。だったらせっかく創ってくれたんだし、私、見てみたい。」

 はい、鶴の一声でした。

 ママ、自分が見たいというより、せっかく頑張ったローディ達の苦労に報いたいというのが本音みたいだね。僕も優しいママに一票でいいや。


 「承りました。有象無象の意見なぞ、聞く耳は持ちません。姫君および次代様のご英断、このローディネス感服いたしました。つきましては姫君、こちらをお持ちください。」

 ローディは、ママに魔導具らしきペンダントを渡した。

 「夜はこちらにお戻りください。ダンジョンは全部で100階。しかし下20階は、存在しない空間ですので実質80階。攻略には何週間もかかりましょう。野営もたまには良いですが、大事な御身を壊しては元も子もございません。無理をしないよう。私ども、誠心誠意、暖かいお食事とベッドをご用意いたしまして、姫君、次代様のお帰りをお待ちいたしております故。」


 ローディは慇懃に頭を下げた。と、同時にここに来るときと同じような光がママのもらったペンダントからあふれ、僕らを包んだ。

 軽い浮遊感と光が収まる。


 そこは、ダンジョン。

 まるで、人が、荒くくりぬいたような薄暗い洞窟だった。



 「たく、勝手なことしやがって。」

 「まあそうお言いでないよ。エッセル様の創ったダンジョン。未知の魔物。あんただって腐っても冒険者だろ。心躍る、ってもんじゃないか。」

 「ふつうだったらな。こちとらガキ連れ、しかも目的は宝箱とか、わけわからんもんだ。未知が多すぎて手が回らん。」

 「でも、僕はわくわくしてますよ。噂のエッセル様。どんな魔物を創ったんだろう。」

 「正直言うと私もです。エッセル、という謎の記憶保持者。その記憶の一端を垣間見れると思うと、正直、こちらのコースが気にはなってたんです。」

 「同じく。ここがエッセル様のロマン、なんですね。」

 「ごめんなさい。おじいさんのことで、みんなに迷惑かけちゃったね。」

 「いやいいさ。これじゃあ、俺が一人悪者じゃねぇか。俺だってじじいの頭ん中、のぞける良い機会だ、とは思ってたさ。」

 「じゃあ、問題ないね。宝箱とやらを探しつつ、未知の魔物で溢れてるであろうダンジョンを攻略する。やることは、普通のダンジョンとそう変わらないさ。」


 そうだね。ひいじいさんの、ロマン。僕も楽しみになってきたよ。




 て、ことで、ちょっと歩いた僕たち。

 さっそく目の前に現れました。


 ぽよーん。


 たった一匹。


 ぽよーん。ぷるぷる。


 青くて丸くて、頭の中央がつままれたようになっている、水の塊のような、ゼリーのような、あいつです。


 「なんだ、あれ?」


 え、知らないの?

 最弱の魔物。初めての魔物、といえばこいつでしょ?

 そういや、産まれてからこっち、見たことなかったかも。


 「水たまり?」

 ママが首をかしげる。

 弱そうなことは、みんな分かってそうで、手を出すか、出すまいか戸惑っている感じ?

 

 「スライムだよ。」

 僕は、言った。

 「なんだそりゃ。」

 「初めての魔物、といえばの定番くん。もしかしたら、話しかけてくるかもよ。」

 僕、悪いスライムじゃないよ、とか言ってくれないかなぁ。

 「なんですって!話すんですか?それだけの知能があるなら、注意しなければならないですよ。」

 ヨシュ兄のことばにみんな緊張する。

 「あ、いや、話しかけるのは冗談、ていうか特殊個体?」

 「とりあえず、私が切ります。」

 ミラ姉が、剣を構えて、飛び出した。


 シュパッ!


 スライムは、二つに裂けたよ。

 と、思ったら、ぽよーん、と、元通り。

 「なに!?」

 手応えなかったのに再生、で、みんなに緊張が走った。

 うん、そっち系のスライムね。切ればおわりじゃなく、不定形を活かした不死身設定。こういう場合は、

 「その、体の中を動き回っている赤いところを砕けば散る、と思う。」

 僕がそう提案したのを聞くやいなや、


 シュパッ。


 セイ兄の剣技が炸裂した。

 よくあれだけ動き回る体内のコアを破壊できるね。ほぼ砂粒なのに・・・


 ビローン・・・


 スライムは形をとどめることが出来なくなって、水のように地面に広がった。

 

 無事討伐完了です。

 そして回収できるのは、一番小さなビーズ玉くらいのサイズの魔石。はっきり雑魚モンスターだとみんなが本当に確信したのは、切られたコアをなんとか探し出してその小ささを確認した時かもね。



 ひいじいさんの夢。最初はスライムから始めよう!てか?

 ハハハ。

 この後、1匹ずつだけじゃなく、複数出てくることも。

 うん、最初はスライムのみ。

 毒とかメタルとか、その他諸々のスライムはまだ出没せず。ただひたすらに、青くて弱くて小さなスライムだけが現れた。

 一度弱点を知ったメンバーたち。現れたスライムを切りまくる切りまくる。

 プルプル、シュパッ!ぷるぷる、シュパッ!

 すべて瞬殺。

 そして・・・・

 妙な罪悪感を感じ始めたよう。震える弱者をただただ切り裂く。うん、気持ちに来るね。

 そんなに落ち込むなら、わざわざ退治しなくても避ければ良いんじゃないかなぁ、僕は小さくつぶやいたけど、みんな、目から鱗!な顔したよ。

 あれ?そんなすごい発想じゃないよね?

 ミラ姉、唐突に僕を肩にかついだよ。

 そして、ダッシュ。

 みんなもそれに続いてダッシュ!

 

 そのまま走って、走って1本道。

 1本道の果てには、下に続く階段が、ぱっくりと口を開けて待っていたよ。

 僕らは全員集合すると、その階段を降りていった。

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