第70話 2歳編④

 探しに探したよ。うん、城中全部。家具をひっくり返したり、武器庫も魔導具庫も、食材庫だって探した。

 おまけに庭園も、いろいろ玉っぽい装飾あったし、塔のてっぺんの装飾もチェックした。何日もかかって探したんだ。


 そして、今。僕の目の前には、でっかいホールケーキ。

 ひいじいさんのもたらした、この城だけの文化。うんバースデーケーキです。

 僕は、誕生日をなんと、ゴージャスなお城の中でお祝いされました。まわりはアンデッドばっかりだけどね。生者は宵の明星メンバーのみです。

 とはいえ、産まれて初めてのバースデーパーティ。僕、2歳になりました。我ながら、なんとも濃い人生を送ってるね。

 骸骨さん、あらためローディ(この人も僕にニックネームをつけて欲しがったんだ。ムーちゃんの話を聞いてね。)は、このパーティの準備にめちゃくちゃ張り切ってた模様。

 「様式美です。」

 と、なぜか羽織袴を着せられ、会場には後から入場。

 入場の時には、クラッカーを、しかも中に紙吹雪いっぱいのクラッカーを全員で打ち鳴らしてくれたよ。うちのメンバーは、ヒモを引っ張れ、と言われてただけだったみたいで、おっきな音にビックリしてた。

 僕は、紙まみれで指定の席についた。そうすると、うやうやしく大きな2段のホールケーキ。ケーキには2本のローソク。そして、チョコレートで出来た板。『アレクサンダー様、お誕生日おめでとうございます。』

 ?

 名前、違うよ?



 それはそうと、僕、生まれて初めてチョコを見たよ。そういや生クリームもはじめてだ。そういや、今気づいた。ここで出てくるご飯、前世の洋食っぽいのばっかりだ。この城と、メイドさんとか執事さん、食器その他諸々があまりに、前世っぽくて、はまりまくってたから一切違和感なかったよ。そういやご飯のたびにヨシュ兄とママ、アンナ、といった、料理の上手なメンバーが、調理場に詰めてたのって、ここの料理が珍しいからだったんだね。他のメンバー?食べる専門です。


 僕の2歳の誕生日はこうして、楽しく、みんなの笑顔で進行中なんだけど、このほとんどがひいじいさんの持ち込んだものなんだね。そう思うと遠いなぁ。まだ2歳。でも追いつける気がしない。せめて、ひいじいさんの歩んだ道をなぞるためにも、もちろん、築いた商会を取り返すためにも、早く玉を見つけないと・・・

 そんな風に考えてる僕に、ローディは言った。

 「ですから、城にそんな玉はございません、と申しましたのに。」

 彼は優雅に笑った。骸骨なんだけどね。とっても不思議だけど、表情が分かるんだ。不思議だね。

 「玉は、城ではなく、ダンジョンにあるんですから。」

 ?え?え?えっっえーーー!

 あなた何言ってるんですか?

 ここへ来てから、ずっと探していたよね。僕らの1日はすべて玉探しに費やしていたこと、知っているよね。もう何日たった?なんで言ってくれなかったの?

 僕らの会話を聞いていたメンバーも、口をあんぐり開けて、ローディに詰め寄った。

 「聞かれませんでしたから?」

 はぁ?

 「私、最初に申しましたでしょ。城にはない、と。」


 言ってたよ。でも、ふつう知らないだけだと思うでしょ?だって今まで、家具とかにくっついてたんだよ?同じように擬態してるから、ローディたちも気づいてないだけって思うでしょ?

 実際、ゴーダンもムーちゃんも気づいていなかったんだもん。そんなもんない、って言うよね?

 「なんで、ダンジョンにあるんだよ!」

 思わずハモる仲よしメンバーです。

 「それは、先代我が君のロマンですから。」

 はぁ?また出たよ、ひいじいさんのロマン!

 「で、ダンジョンのどこにあるんだ?」

 「さぁ?」

 「なんで、さぁなんですか?あなたがダンジョンも管理してるんでしょう?」

 そうなんです。このダンジョン、見つけたひいじいさんとゴーダン含むそのパーティ。見つけたと同時に攻略しちゃったんだって。ダンジョン最奥ってコアがあるでしょ?コアは意志のある魔力の塊。それ自体は意志と純粋な魔力だけだから、自分を一番強い魔物に守護させている。そして、その一番強い魔物だったもの、それがノーライフキングにまで成長したローディだったんだって。でも、その日やってきたひいじいさんのパーティにボコられた。そして、コアを破壊すればダンジョンは壊滅、て、なるはずだったんだけど、なぜかボコられて殺されそうになったローディの「せめて遺跡の保護を」という遺言にひいじいさんは感動。すっかり意気投合し、ダンジョンは破壊せず、この最奥に隠れ家を作ったんだって。困ったのはダンジョンコア。そことも話をつけて、ダンジョンは今までどおり。ただし、最優先を新ダンジョンマスターたるひいじいさんのおうちの保護管理とする、という契約をとりつけた。ダンジョンコアを破壊する代わりに部下にした、って感じ?どこまでも規格外なお人です。


 ダンジョン自体はそもそもダンジョンコアの意志に従って運営されてた。そこにひいじいさんのお遊びというちょっとした注文が乗っかってる。その注文は、ひいじいさんがダンジョンで遊びたいときはダンジョンに、隠れ家に来たときは隠れ家に、その望みに従って誘導するというもの。ここまではゴーダンも既知のこと、だったんだけど・・・


 「先代様は、地上の者には内緒で、ロマンを配置するように仰いました。ロマン、すなわち、宝箱!」

 いや、この世界のダンジョンに宝箱はないよね。みんな何それ?て顔してるよ。

 「先代様は、ダンジョンに宝箱がないのは、侍にちょんまげがないようなものだ、と嘆かれましてな。侍とかちょんまげとかは、少々耳なじみがないものの、いかんせんロマンが不足するものだそうで、この悲しみをやがて来るだろう次代様に味あわせるのは酷だ、と、仰いました。そして、最優先命令として、次代様がダンジョンを楽しむときのために、宝箱なるものを用意し、その中にこれを入れるように、と石でできた玉を6つ私めにお預けになったのです。私は、いつか来るであろう次代様に夢を馳せつつ、6つの玉の入った宝箱と、それ以上の数の宝箱をダンジョン中に配置、いつでも、お楽しみいただけるようになっております。」


 ・・・・


 いらん、心遣いを、ありがとう。

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