第69話 2歳編③
僕は、リュックに手をかけたまま、呆然と、城を眺めた。
城の周りは堀になっているようで、城門は、どうやら跳ね上げ式の橋を兼ねているようだ。僕らがじっとしていると、その橋が下ろされ、どぉん、と、こちらの岸に繋がった。
パッパカパーン、パパパパパーン!
ちょっと間抜けなラッパ音。
そして、ガチャガチャという金属がこすれる音と共に、
ザッザッザ・・・
たくさんの人の行進する音。
城からおそろいの鎧を着た騎士達がザッザッザッと2列で出てくる。
一番後ろに一人だけゴージャスなマントを翻し、馬に乗った人。
さすがに、元兵士3人組。パッと僕らの前に出て、かばうように立った。いつでも武器を手にできるように構えて。
「あー大丈夫だ。」
そこに間の抜けたゴーダンの声。よいしょっ、と、おっさんくさいかけ声をかけつつ、それまで座り込んでいたのを立ちあがる。
戸惑う残りのメンバーに、ひらひらと手を振って、大丈夫だ、と、再び言う。
そうこうしているうちに、騎士の軍団は、僕らの目の前まで迫ってきた。
僕らと騎士達の間が、馬5頭分ぐらいだろうか。
騎士の行進は、静かに止まる。
ゴーダンは、軽い感じで、3人組を押しのけ、前に出た。
合図があったようには見えないけど、騎士達が2歩ずつ左右に移動する。2列だった騎士達の間に道が出来る。
パカパカパカパカ
間抜けな音を立てながら、一番後ろにいた馬の人が、その道をたどって、ゆっくりとやってくる。
!!
僕は、そして、周りも息をのんだ。
ゴージャスな衣装は王様のものだろうか。
真っ赤なマントの縁は白色の毛で覆われ、シルバーグレーの緩いアフロみたいな髪とグラデーションを奏でている。
馬(といってもシューバだけど)にも、ゴージャスな絨毯みたいな布がかけられ、立派な装いだ。
だけど、僕らを驚かせたのは、その装いではなかった。
その人も、シューバも、その立派な装いの下は、骨だけだったんだ!
魔物、なんだろう。
僕も、みんなも、ゴーダンが不敵にニヤニヤしながらその様子を見守っていなかったなら、きっと、剣や魔法をたたき込んでいただろう。いや、そんなゴーダンを見ている今でさえ、警戒は消せない。何かのきっかけがあれば、放たれる矢のごとく、みんな力を振るうだろう。
そんな僕らの逡巡を歯牙にもかけず、そいつはゴーダンの目の前まで馬を進めた。
ゆっくりと、シューバは歩を止める。ゴーダンは馬上のそいつに、よおっ、と言いながら、片手をあげた。それに微笑んだのだろうか。そんな雰囲気をさせたそいつは鷹揚に頷いた。
そして、僕らを一人一人ゆっくりと見ていく。
前にいた、ヨシュ兄、ミラ姉、セイ兄。
ママの前に立つアンナ。
僕を抱きしめるように跪くママ。
そして、リュックに片手を置いたまま見上げる僕。
僕と目が合って、そいつは、目を見開いた、ような気がした。骸骨だから穴があるだけなんだけど、なんだか、そんな気がしたんだ。
そして、そいつは、馬から下りこちらに近づいてきた。
その前をふさごうとしたヨシュ兄たちを、ゴーダンは手で制し、そいつは僕にまっすく向かってくる。ママが僕を背中からギュッとする。
僕も緊張して、片手でママの手を押さえ、反対の手にいつでも攻撃できるように魔力を通した。
カシャ。
そいつは、僕の目の前に来ると、服についた金具や剣をカシャっと言わせて、なんと、騎士がするように片膝をついた。
息をのむ僕。
ゆっくり頭を垂れるそいつ。
「お待ちしておりました。我が君。」
え?えぇーーーっ?
また出た?出ましたか?ひいじいさんの遺産?
僕は、ゴーダンを見上げる。どうなってんの、これ?
ゴーダンはクックッ、と喉の奥で笑っている。
笑ってないで、説明!
「ご想像の通り、そいつがダンジョンの家の管理人サー・ローディネス。見ての通り魔物だ。」
「失敬な。私はノーライフキング。塵芥のそこらの魔物と一緒にするでないわ。」
「はいはい。紹介するとな、コイツは元この遺跡の王様。国が滅びても執着が凄くて魂が残った粘着質のゾンビだ。ダンジョンで進化して、こうなってる。昔、ボコボコにした結果、ここの管理人やってる。」
「貴様、端折り過ぎだ!お見苦しい所をお見せして申し訳ありません、我が君よ。そこな、粗忽者の申す通り、私はこの城の管理を命じられし、ナッタジの忠実なる僕。先ずは、我が君におかれましては、入城していただき、お口汚しの栄誉を頂きたく。」
ハハァ、と、土下座しそうな勢いで、再び僕に頭を下げる、骸骨さん。何言ってるかさっぱりわかんないけど・・・
「ご飯出すから、城に入れと言ってるのさ。」
アンナの解説。そういや、お腹すいたね、て、休憩しようとしてたんだった。でも、この人、アンデッドてことだよね。ご飯、大丈夫かな?
「よおし、メシメシ!」
うん、大丈夫っぽい。ゴーダンがウキウキしながら、騎士さんたちの道を楽しげに通っていってるよ。
「ご案内お願いします。」
「お世話になります。」
「いや~、腹減ってたんですよ。」
元兵士組、切り替え早っ。
「私が仕えるのは、ナッタジ家のみ。お前たちに馳走する気はない。」
「え?僕の仲間にはご飯ないの?」
「いえ、あ、その、冗談です、我が君よ。もちろん、たっぷりと用意しております。ただ、あなた様を差し置いて、この私に声をかける無礼に教育が必要かと・・・あ、我が君、そのように悲しそうな顔をなさらないで下さい。私が悪うございました。お仲間もぜひお食事を召し上がって頂きたく、どうぞ城へ。」
「僕にとって、仲間は、家族で先生なんだ。だから、優しくしてね。」
「もちろんでございます。ささ、どうぞこちらへ。」
骸骨さん、悪い人じゃなさそうです。でも、丁寧過ぎて何言ってるかよくわかんないね。あんまり、僕を持ち上げないでほしいんだけど。絶対、みんな面白がってるもん。でも、ママは僕が丁寧に扱われると、すごく嬉しそうだから、やめて、て言わないよ。
うん。僕、令嬢様とムーちゃんで、学習しました。
それにしても、本当にお城、だね。
そういう意味では、中に入ってサプライズはなかったよ。想像通りの、石のお城。ヨーロッパの砦を兼ねたような、堅牢な佇まい。部屋はゴージャス。家具も猫足系にシャンデリア。
骸骨さんの国の模倣かな?と思ったら、違いました。ここもまたひいじいさんの作品だそうです。ひいじいさんの考える西洋のお城そのまんまを再現したんだろうね。どうりで、ぽい、はずです。
ご飯は、うん、おいしかった。
骸骨のメイドさんや執事さんがサーブしてくれるんじゃなかったら、もっと楽しめたのに残念です。
そうです。このお城、サー・ローディネスさん以外にもたくさんの生きてない人がいます。僕は、慣れるのにちょっぴり時間がかかりそう。なんでみんな平気そうなんだろう?人生経験の差?
とりあえず、このお昼ご飯が終わったら、みんなでお城の探検です。ちょっと聞いたけど、このお城に、お目当ての玉はない、て、言われました。今までみたいに、また何かの一部になってるのかな?今までと比べて、探す量がハンパないね。気が遠くなりそう。
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