第68話 2歳編②

 ダンジョン、というのは、不思議な所だね。

 色んなダンジョンがあるけど、それぞれ個性的なんだって。意志を持ったコアが自分で考えて、魔力を集めようとするから、個性的なのができるのかな?


 ここナッタジ・ダンジョンは、遺跡がベース。だから、遺跡の延長みたいな地形になってる。今、僕たちは、遺跡から地下へと続く階段を降りている。途中から、というか、10段くらい降りてからは僕はヨシュ兄に抱かれてるけど・・・

 階段は、この小さな身体には酷だと思う。歩くのも走るのもずいぶん上手くなったけど、段差は、ね。特に降りる方がたいへん。まだまだ頭の比率がデカい、残念シルエットです、僕。


 それにしても、階段長いね。

 「この階段、長さは変わるぞ。」

 当然のように、ゴーダンが言った。

 「しかも、明るさも変わる。」

 マジで?

 暗く長い階段のときもあれば、明るく短い階段のときもあるんだって。今の感じじゃ、今回は明るく長い階段、かな?

 うん。むちゃくちゃ明るい。そして階段じたいは狭くて、大人二人並ぶのがやっとの幅なんだけど、両側の壁はそそり立ってる。しかも、なんというか、ゴージャス。きれいなレリーフが施され、所々に絵なのかな?壁に埋め込まれた額か、飾り枠のついた窓みたいにへっこんでいて、その中には、立体の絵?彫刻?という感じのものがくっついてる。うん。これらの額付きの絵みたいなのは、壁と一体化してるんだ。

 立体絵の内容は様々。何かのシーンみたいなのが多いかな?後は風景とか、動植物とか。


 「えらく歓迎してくれてるじゃないか。」

 ゴーダンが、クックッと、喉の奥で笑った。

 「これは、歓迎、なんですか?余りにも単調、というか、魔物の一匹も現れないんですが。」

 ヨシュ兄が、前を歩くゴーダンに返す。

 「このダンジョンは、管理がしっかりしてるからな。管理人の意志一つで、魔物との遭遇は0だ。今回は、そのパターンかもな。」

 魔物0、て、それはダンジョンと言えるの?僕、けっこう楽しみにしてたんだけどな。あ、バトルジャンキーとかじゃないよ。ここに来るまでに、みんなで、どんな魔物が出るか予想しながら来たから、その答え合わせ、したかったんだ。さすがに魔物はいません、は、想像しなかったよ。ダンジョンて、周りの魔物とかを誘致して、強くして、番犬(犬じゃないから、なんて言うの?)とか、エサにして、次の獲物を呼び寄せる、んだよね?



 それにしても、どんだけ降りるんだろう。

 随分の時間降りてるね。なんだかおなかがすいてきたね、と、みんなで話してたら、まるでそれを聞いていたかのように、壁の一部がへこんでる。

 「ここで休憩しますか?」

 そのへこみを見ながら、ミラ姉が言った。

 なんかね、壁の一部がね、アーチ型の入り口になっていて、丸く凹んでるの。中を覗くと天井はきれいなドーム型。

 ここに入りなさい、て言ってるみたいで、ちょっと逆に罠じゃない?て思えるよ。

一瞬みんな躊躇したんだけど、ゴーダンが、大丈夫だ、と言って、その中にズカズカ入っちゃった。


 その円形の部屋は、僕ら全員が入っても、ちょっと余裕があったよ。階段の所は明るかったけど、この中は明かりがない。階段の方からの光が入ってくるから、見えないほどじゃないけど、奥の方はさすがに暗いかな。

 僕らは地面に座って、お昼ご飯にしようか、と車座になったんだ。こうやって座ると、いっぱいいっぱいかな。計算したみたいに、ジャストサイズ。

 「計算したんだろうさ。」

 ゴーダンが訳知り顔で、フフンと鼻をならす。

 その時は、ひいじいさんのリュックをセイ兄が持っていて、みんなの中央にどん、と降ろしたよ。リュックは誰でも入れれるけど、出せるのは僕だけ。だから、中からご飯とかいろいろ出そうと、僕がにじり寄ったときだった。


 ブオーン


 なんか、鈍い機械音みたいなのがしたと思ったら、


 ポーワーン


 床に鋭い白い光が走り、何か幾何学的な模様を描き出した。

 その線を元にして、全体が鈍く白く輝き、


 ちょっとした浮遊感。


 僕は思わず目を瞑る。


 ・・・・


 しばしの静寂。静かすぎて、キーンと音がするような錯覚を感じる。


 ・・・・


 発光が徐々に弱くなるのを、閉じた瞼越しに感じて、ゆっくりと目を開ける。


 !


 目の前の景色が違う。


 僕の目は、それに釘付けだ。


 ほぼ同時にみんなそれに気づいたんだろう。

 ゆっくりと立ち上がる気配が、複数感じられる。


 僕の前には、


 石造りの堅牢なヨーロッパ中世風の城が佇んでいた。

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