第67話 2歳編①

 僕たちは、今、ピグン砂漠を行軍中です。


 無事、アッカネロで2本目の玉6個をゲットできた僕たち。

 アッカネロ伯爵邸を辞し、今度は南下してます。

 そして、1月あまり。

 生まれて初めての砂漠です。


 僕が育ったダンシュクのあたりは乾燥していて茶色い感じだったけど、森があり、そういう意味では随分と穏やかだったんだな、と、思う。

 でも、ここピグン砂漠。ほぼ裸の大地。

 ピグンは王国の南の端にあるビレディオ領に属してます。砂漠はどこまでも続いていて、超えた先は何があるのか未知の世界。

 砂漠には騎馬の民と呼ばれる遊牧民が住んでいて、魔力だまりや水場にはオアシスができるんだって。この前の雪山と同じような感じかな。温度は真逆だけどね。


 どうしてこんな所に来たか。

 もちろん、こんな変なところにひいじいさんが隠れ家を作ったからです。次は砂漠の家?残念、はずれ。

 実はなんと、次の目的は、砂漠の真ん中にある、とある遺跡。の、地下にあるダンジョンです。

 うんダンジョン!あるんだね。

 いや、あるのは知ってたんだ、僕だって。有名なダンジョンはいくつかある。ダンジョン都市なんてものも、各国にいくつかあるしね。

 ダンジョンてなんぞや。

 魔物がいて、宝箱があって、地上と同じような空間があって・・・というのは、前世のフィクションの話。

 少なくとも宝箱はない。

 いろんな賢い人が、いろんな説を唱えているみたいだけど、形成され方は同じ。この世界では魔力があるでしょ。魔力は人や獣、植物にあるだけではなくて、大地にも空気にも充満している。一種のエネルギーと考えると良いかな?エネルギーは質量を持って引き合う。引き合ってどんどん大きくなることも。ブラックホールみたいにどんどん収縮して、しまいにはエネルギー体が固体化する。これがコアと呼ばれるもの。コアはさらに魔力にさらされ続けると、一種の意志を持つ場合がある。意志を持つと、次は獲物を誘う。誘うために地形を変えたりして、そのあたりを自分の指揮下に置く。まわりにある動く魔力を誘引する。誘引するためにいろいろ仕掛ける。こうして、出来たのがダンジョン、と呼ばれるもの、ではないか、というのが有力な説だそうです。

 ちなみに今のはひいじいさんが、学説を自分なりにかみ砕いたもの。いや、科学的に改変したものと言った方が良いかな。ミラ姉によると、学校では、魔力が魔力を呼び、コアに変遷すると、まわりの魔力を持つものは取り込まれて、ダンジョンを形成する、と習うそうです。そこに、何故、何、はなくて、断定的に教えられるから、普通はそんなもんだ、ぐらいにしか思わないんだって。


 なんで、こういう話が出てきたか、というと、僕らが行くダンジョンの魔物を類推するため。行ったことのあるゴーダンに、どんな魔物が出るのか、とみんなで聞いたら、ダンジョンだから推測しろ、と言われた。それで、ああでもないこうでもない、と言ってこんな話になったんだ。まぁ、単純に退屈してきた、というのもあるけどね。


 砂漠は何もない。平らな砂の大地だろう、そう思ってました。

 でも意外と生命に溢れてます。しかも起伏に富んでます。丘陵っていうのかな、アップダウンはかなり激しいよ。

 でもね、どんなところでも生きているものたちはいるんだな、と、感心したよ。

 無害な生物も多いけど、危険生物もいっぱいです。

 火を吹くトカゲ、電車サイズのミミズ、海外へ行けそうな飛行機サイズの猛禽類。ここでも、通常よりよく襲われます。僕、魔物ほいほい。もう悔しがらないよ。退屈しのぎになるし、おいしい素材取り放題。みんな感謝してね。


 一度、象サイズのアルマジロ、みたいな魔獣に出会ったときはさすがに焦ったかな?全身よろいみたいな皮膚で包まれていたからね、攻撃がまったく通らない。このよろい、固いから最高級の鎧の材料として高値で売れるけど、これを加工できる技術は我が国にはないんだって。なんといっても、こういうのが加工できるのは、ドワーフ族。うわぁ、いるんだ。この国にはほぼいない、らしいけどね。人間以外に居住権を認めていない残念な国です。

 人間以外といえば、ムーちゃん、元気かな?彼は相変わらずやまびととして、山の家を管理してくれてるよ。僕らとは下山したときに別れたけど、いつでもおいで、って言ってくれたし、山の家の魔導具はもっと楽しみたいもん、絶対行くよ。


 話を戻して、アルマジロ型の魔獣。

 みんなのどの剣も、もちろん弓もはじかれちゃった。

 ここは、定番。固くて大きい敵は、中から叩く!はりきって、提案してみました。口から入って、内臓を攻撃、定番だと思ったんだけどね。

 「それって、食われるってことだろ?中入ったとたんに溶かされるわ。」

だそうです。確かに人間でも口の中にも酵素あるし?胃までいったら、強酸だし?そりゃ魔物だもの。人間の柔肌なんか、一瞬でジュッ、だってさ。下手したら息でさえやばそうです。


 じゃあ、どうする?

 火と氷の魔法を使えば、さすがに砕けるんじゃない?

 「仮に砕けたら、素材パーですよ。戦う意味あります?」

 ヨシュ兄、ごもっとも。


 こんな悠長な話しているけど、すでに1時間近く、魔法や剣で戦ってるよ。そろそろみんな限界。相手は、隙をみては、長い舌で拘束しようとしてくるし。どうやら、その長い舌で獲物を巻き取って、パクッといくらしい。蛙が獲物を捕るみたいに舌を使ってくるし、その長い舌もとっても固くて、剣と打ち合える。

 プシュー

 ときおり、首辺りがフイゴみたいに動いて、息が出る。

 てことは、息をしてるんだよね。

 じゃあ、窒息させれば?

 ミラ姉が、それじゃあ、と、風で檻をつくり、内部の空気を抜いていく。

 プシュ・シュ・シュー

 首の所のフイゴからすごい量の息を吹き出して、檻ごと吹き飛ばした!

 そもそも、じっとしてないから檻に閉じ込めるのも難しい。

 僕の魔力を使っても、ミラ姉の技能じゃ無理だった。

 僕もトライしたけど、空気の抜き方が分からなくて断念。


 「動きを止めるか。ダー力を貸せ。」

 ゴーダンが僕を抱き上げて、直接魔力を持っていく。

 そのまましゃがんで、タイミングを見計らい、

 ゴォーン!

 てっかい落とし穴を足下に作ると、アルマジロもどきが音を立てて沈んだ。

 落とし穴は、正確に魔獣のサイズプラス僕の身長ぐらいの深さ。

 「ダー、ミミ、手伝え。」

 土魔法が得意な、三人で、その落とし穴を砂で埋めていく。ある程度埋まったところで、水をまくように言われた。

 砂漠の砂は、カスカスだから、水がよく染みる。

 水魔法を使えるのは、僕とゴーダン。が、ヘロヘロのゴーダンってば役立たず。

 僕は、大きな砂のプールにご機嫌に水を入れていく。

 ママが時折、砂を足して、他のみんなは野営の準備。

 もう、みんな限界だよね。

 僕も、ちょっと限界かも・・・


 気がつくと、アンナの腕の中でした。


 一晩たって、アルマジロを掘り出します。

 解体、できなかった・・・固くて刃が通らないよ。

 よろいの隙間に刃を通すけど、隙間に合わせてしか刃は動かなかった。これ、本当に解体できるの?ドワーフさん達におまかせだね。

 ということで、ひいじいさんのリュックの出番です。

 無事、収納完了。


 そんな感じの楽しい遠足。

 砂漠へ入って10日ぐらい?

 砂の中に、黒っぽい何かがポツポツと見えます。

 ほとんど埋もれてるけど、砂と同じ色の朽ちた建物の残骸。

 ほぼ残骸で、建物の基礎工事中です、みたいな間取りだけが残された石造りの町。時折柱まで残ってるものもある。砂漠の中には、ここ以外にも同じような遺跡があるんだって。昔は栄えた国だったのかな?


 よく、こんな砂漠の真ん中の遺跡になんてこれたね、と思うでしょ。見つかったダンジョンは、基本的にはギルドの管理下となる。だもんで、新しく見つけたら、冒険者ギルドに報告することが義務づけられている。行商人とか、冒険者でない人も同じ。別に町の役所とか、自分の所属するたとえば商人ギルドなんかに報告してもいい。全部、冒険者ギルドに情報は行くことになっている。なんで、そういう事になっているかっていうと、危険かつ利益が見込めるから。ダンジョンには、コアに集められて強化された特別製の魔物が生息する。それはとっても危険。でも、ダンジョン産の魔物の魔石は上質。魔物は魔石、と呼ばれる宝石みたいな塊があって、そこに魔力をためて活動する。魔物、とか言ってるけど、これはいわば魔力のバッテリー。たくさんの魔力を持つものほどデカいバッテリーを持つ。そして、人間にもこれはあるんだ。たぶん、僕を解体したら、人間としては大きな石が出てくるかもね。この魔石は、基本的には心臓の一部になっている。前世の人間とは、体組成はちょっと違う。体に流れるのは血、リンパ以外に魔力がある、と思ったら良いかな。


 魔石って大きいといっても、そもそもが小さいんだ。今までで発見された最大級の魔石が、ドラゴンから出た大人のこぶし大のものだ、といえば分かるかな。デカッて、冒険者がのけぞるので、ピンポン球サイズ、と思えば間違いないよ。

 この魔石、魔導具のエネルギー源として使われます。だから、人間社会にとってとっても大事。電気とかガソリンとか、そんな役割。

 冒険者は、魔物を倒して、素材と魔石を手に入れます。それがお仕事。討伐とか護衛とかの依頼系とは別に、これだけをやる冒険者もいっぱいいるよ。だって、ピンポン球サイズの魔石なら、庶民の家族4人が贅沢しなければ3年暮らせるお金になるんだ。 ハイリスクハイリターン。これぞ冒険、なんだって。


 そんな感じで、ダンジョンを利用するのは基本的に冒険者。ギルドは互助組織だから、ダンジョンの管理をし、冒険者にここにこんなダンジョンがあるよ、と、情報を公開する。ダンジョンを放置すると、どんどん魔力が誘引されて、その中で収まらなくなっちゃうからね。キャパオーバーしちゃうと、ダンジョンから魔物があふれ出す、なんてこともあって、これで国がつぶれた、なんて過去もある。適度に魔物を狩って、せっせと素材や魔石を供給する、それが大事。


 ダンジョン、というのは、誰かが見つける。見つかったら冒険者ギルドに報告する。見つけた人に利益はないの?僕が聞いたら、見つけた人の名前がつけられる、だって。うーん、名誉だけ、って感じ?

 人気ダンジョンは、ギルドが丁寧に管理するから、その運営費として入場料を取る場合がある。たいていは、その入場料が、発見者およびそのパーティは無料になるという得点もあるらしい。けど、ダンジョンてすごい数あるから、そんなギルドが直接管理するなんてのはほんの一握り。


 なんで、こういう話か?

 今から行く、この遺跡の外れのダンジョンの名は『ナッタジ・ダンジョン』。発見者はエッセル・ナッタジをはじめとするパーティだそうです。

 ギルドにきちんと届けてあるけど、だからこそ、地図もあるけど、不人気ダンジョン。訪れる人はまばら。それでも年にのべ100人ぐらいはいるらしいよ。

 こんなダンジョン内に隠れ家をつくるなんて、何を考えてるんだろうね。

 ていうか、どうやって作ったんだ?

 魔物は襲ってこないのかな?

 いろいろ疑問があるけど、とにかくこの目で見てみよう。

 たくさんの朽ちた建物の外れ、そこだけ何故か緑が生え、小さな森のようになっているその奥。突如として現れた、ピラミッド型、うんエジプトよりはマヤみたいなピラミッド。数段の階段を登った先に、大きく開いた入り口。ガランとして、妙に靴音が響くその先。祭壇のようなものの後ろに地下に向けて繋がる階段。

 この先はもうダンジョン。

 わくわくするね。何が待ってるんだろう。

 僕たちは、ゆっくりと階段を降りていった。

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