第66話 生後22ヶ月編⑯
「思ったより早かったのう。」
相変わらずの化粧&衣装で笑うシーアネマ・アッカネロ伯爵令嬢様。
「今日は宴を開く。準備を!」
後ろに控える執事さん(?)に向かって、そう言うと、僕にウインクした。オエーッ。
「今日は、ダーちゃまのおひろめじゃ。」
いや、ないし。
僕、養子になるために来たんじゃないよ?
ゴーダンとアンナが、詰め寄ろうと一歩出る。
「誤解するな。私の養子話を振った、いつかはこの手に入れたい、優良物件としてのお披露目じゃ。」
なんだそりゃ?
「私のご執心、という後ろざさえ、悪くないと思わんか?」
そうなの?ゴーダンだけじゃなく、貴族出身のメンバー、考え込んでる。おや、うちのメンバー貴族出身多くない?アンナ、ミラ姉、それにセイ兄も元貴族だ。約半数、て、冒険者はこんなもんなのかな?よくわかんないや。
みんなは「ありか」みたいな顔をしえる。けど、やっぱり、ちょっとイヤかも。
取り込む気満々だよね?
僕はママといるもん。そりゃ、ずっとは無理だって分かってる。ママが幸せな生き方を掴むまでは、一緒にいたいんだ。子供の方から言うことじゃないのは分かってるけどね。
それに、最近は、ひいじいさんにちょっぴり憧れてる。同じ転生者。だけど、僕よりずっと色々覚えてて、いろいろ出来て。しかも、僕みたいな転生者が子孫に産まれることを予想してたのか、単なる希望か、わかんないけど、いっぱいヒントを置いてってくれてる。僕はひいじいさんの血を引いてることがちょっぴり嬉しい。あんまり血とか言いたくないけどね。僕の父親を考えると、さ。
どっちにしても、今はママから離れる気もないし、この生活を捨てる気もない。
「ダーちゃま。そんなに嫌がらないでくれたら、いいもの上げようと思ったのにのぉ。」
渋い顔をする僕に、令嬢様は、そう言った。
「いいもの?」
「我が師匠の、将来の夢を再現した部屋を見せてあげよう。あのお方はいろんな魔導具を作ったが、将来これと同じ機能を持つ魔導具を作るのが夢だ、と、言っておっての。残念ながら夢を叶えることが出来なかったが、夢の内容はその部屋を見れば後継者なら分かる、と、言っておったの。」
師匠、て、ひいじいさんか。
ひいじいさんの作りたかったもの。気になるよね。
「見たいな。」
ママがつぶやいた。
「それを見てダーがなんて言うか見てみたい。」
ニコッと、ママが笑う。
そうだね。見たいよね。
メンバーを見ても興味津々。
ここで僕が駄々こねてもね。僕もひいじいさんの夢、見てみたいし。
僕らは、令嬢様主催の宴へ出席することを了承した。
「のお、ミミよ。ダーの晴れ姿を見たくはないか?」
ママは、首をかしげる。今度は何を言い出す気?
「これだけ、かわいいダーだ。もっともっとかわいく着飾れば、みんなダーに夢中になること間違いなしじゃ。私は、ダーをみんなに自慢して自慢し尽くしたいのぉ。」
ママは、目を輝かせた。
「私も、ダーをもっともっとかわいくしたい。」
「では、私に任せてくれんか?」
「かわいくしてくれる?」
「世界一の色男じゃ。」
「ん。お願い。」
「了解じゃ。では、ダーを連れて行くぞ。できあがったダーを見て感動するがいい。おまえ達の衣装も用意している。そこのメイドに案内させるから、そちらへついて参れ。さぁ、ダーちゃま、私と行こうかの?」
え?え、えー?僕だけ離されるの?やだよ。このまま拉致られるかもよ?ママ、僕、連れてかれちゃうよ?なんでそんなにニコニコ手を振ってるのさ。
僕の抵抗も空しく、僕は一人離されて・・・
うん。拉致られは、しませんでした。
今、僕は、絵本の王子様も顔負けの格好をさせられています。
絹のような光沢のある、羽のような着心地の服は、どうやったのか、僕のサイズにぴったり。レースと宝石が散りばめられ、いったいいくらするのやら。
そして、僕は、背の高い金ぴかの椅子にちょこんと座らされています。お子様サイズの椅子。前世でもレストランとかで赤ちゃん用に椅子が用意されてたよね。あんな感じ。でも、全体が金ぴかで、座面は真っ赤なビロードっぽい布。
僕の横には、いつも以上に派手に着飾った、伯爵令嬢様。うん。まさかのいつものは、平服だったらしい。ビックリです。
伯爵令嬢様は、次々に挨拶に来る貴族然とした人たちに、かなりの上から目線で挨拶を返しています。そして、僕のことを自慢(?)してるよ。僕は、何度申し込んでも養子の話に首を縦に振らない困ったチャンなんだって。でも、それも無理もないぐらい、前途有望で、「私程度では養親は務まらないのは分かっておりますの。おほほ。」と笑い、「あなた様が務まらないなら、誰が務まりましょう?」と慰められるまでがワンセット。この年で才気溢れ、末は英雄になること間違いなし、たとえ養親になれなくとも、影ながら支えたい、と目元をハンカチで押さえる。なんだこの茶番?それに対し、何故か令嬢様の態度をべた褒めし、自分も影ながら応援すると言ったり、僕の顔や髪を褒めたり。そして、次の人と交代。またまた同じようなことを繰り返し。
はぁ、僕もう疲れたよ。
たくさん並べられたごちそうも食べてないし。
メンバーを目で探すと、嬉しそうに食べてたよ。ずるい!
みんなも、それぞれに似合いの衣装。うん。今日来てる人の中ママが、ダントツの1位だね。シルバーブロンドの髪が黄色のドレスに映えて、女神様だ。
意外と、ゴーダンが渋くて格好良い。軍服っぽいのかな?黒をベースにシルバーの飾り。僕もあんなのが良かったな。アンナもすてき。まさかのドレス。でも着られてないのは、やっぱり慣れてるのかな?女王様の風格です。
ミラ姉もビックリだよ。まあモデル体型だもんね。いつもは、男装の麗人で女の人からきゃあきゃあ言われそうだけど、今はお姫様。ふわつと裾の広がったドレスは、まさか剣を振るなんて想像できない深窓の令嬢になってるよ。
ヨシュ兄は、あんまり変わらない。いつも、貴族っぽいからね。てか、貴族じゃないのに一番貴族っぽいって、なんで?
セイ兄は、うんセイ兄だ。もともと王子系だしね。顔が柔らかいから、男らしく見せたがる。で、いつも軽よろいを着てるみたいな格好をしてるけど、そんなに強そうには見えない。今日は、ちょっとフリフリした王子様系の服を着てる。いつもより軟弱度アップっていえばアップ。だけど、印象が変わらない。いつもこんな格好してたかも、て、思っちゃうぐらい似合いすぎ。
これらを用意したのが、令嬢様なんだって。皆、それぞれに似合いそうなものを用意した、と、僕が着替えさせられてるときに言ってたけど、コーディネーターとしては凄腕だね、なのに、なんで自分はあんなに残念?いや、似合ってないわけじゃないんだろうけど、さ。
ある程度挨拶地獄が終わると、ダンスタイムみたい。
わぁ、うちの女性陣大人気。でも、ママは無理・・・て、踊ってるよ!いつ習った?
この世界がそうなのか、令嬢様主催の特別なのか、女性から男性へのアプローチもありのようです。うちの男性陣も、大人気のよう。全員無難に踊ってるのが解せない。
さすがに間もなく2歳、の僕に申し込む人はいなくて、ホッとしたよ。
僕がそんな会場の様子を椅子に座ったまま見てたら、メイドさんの一人が僕にご飯を持ってきてくれた。
「ありがと。」と言って、お皿とフォークをもらおうと思ったら、やんわり断られ、あーん。
え?ここで、あーん?
ビックリしてたら、後ろからよだれかけみたいなの、つけられてた。
いや、なんの羞恥プレイ?
赤ちゃんみたい、て、僕、まだ赤ちゃんか?
メイドさん、1人1皿。気がつくと、さっきの挨拶の貴族の代わりに並んでるよ。
おなかも減ったし、あきらめて、あーんしました。
マジ、僕、限界です。
そんな、地獄の宴が終わった翌日。
僕らは、令嬢様に連れられて、庭を歩いていました。
ここは、令嬢様専用で、伯爵すらも入っちゃ行けない空間なんだって。なんで当主より娘が偉いんだか。そういや、誰もこの人には頭があがらないんだっけ?あ、昨日の宴で伯爵一家のみなさんとも会ったよ。
庭の奥には生け垣みたいなのがあって、その中へ入っていく。
生け垣の中には、小さな小屋。
案内されて、入ろうとすると、
「皆、靴を脱ぐのじゃ。」
まさかの、小さなたたきがあり、一段高くなった木の床。まるで旅館の部屋に入ったみたいな、木の障子のような横スライド式の扉が目の前に現れた。
靴を脱いで、上がる。
令嬢様が、ドアを横にスライドさせる。
畳だ!
ご丁寧に6畳の畳の部屋。
「エッセル様が当家にいる間の宿泊所でね。作ったのもあのお方。内装もすべてご本人が持ち込んだもの。どうえ?」
僕の口はあんぐりだ。
昭和な子供部屋?木で出来た机。あ、横のふすまを開けたら、2段の押し入れだ。上段には布団が!ベッドにしてる?
「ここに寝るのが最高だ、と仰ってたわえ。」
「これが、ひいじいさんの夢?」
「これは、もう完成だから違うようじゃ。ヒントは、机の引き出し。それと、」
令嬢様は、何故か押し入れの逆につけられた(?)小さなドアを指さした。
なんだ?ドアと思ったけど違う?なんか、違和感・・・
あ、壁にあるんじゃなくて、独立して立ってるんだ。
僕がそっと見ている間に、机の引き出し、と聞いたメンバーが、机に向かっていた。そして、一番大きな、というか、薄くて長い、机面の下につけられた引き出しを開けたセイ兄。
「うわぁ!」
中から何か、飛び出した。いや、飛び出す絵本的なものか?
「あービックリした。なんだこれ。」
それをつついてピロピロさせている。
机には、それ以外にも右手に引き出し数段。
その1つを開けたミラ姉。何かを持ち出す。
「なんでしょうか?」
ヨシュ兄がそれを取って眺めた。
え?あれって・・・
ハハハハ・・・
僕は笑いの発作に襲われたよ。何やってんだ、ひいじいさん!
一人笑い転げる僕。心配そうに、詰め寄るメンバー。
「おい大丈夫か?」
ごめん、ごめん、心配させる気はなかったんだけど・・・悪いのはひいじいさんだからね。
僕は、それを持ったままのヨシュ兄に手を出して、現物を受け取る。
ん、まんまだね。
僕はその十字の部分をくるくる回した。
「これはね、こうするの。」
僕は、それを頭に乗せる。
みんな、?を頭に浮かべてる。
「そうするとね、これがくるくる回って、空を飛べるんだ。」
「無理だろ。」
「うん。だからひいじいさんは、これと同じように空を飛ぶ魔導具を作りたかったんじゃないかな?それとね、」
僕は机に向かい、セイ兄がつついていたものを指さした。
アンナが気を利かせて、僕を机に座らせてくれる。
僕は机の引き出しに取り付けられた飛び出すそれを見る。布に箱、時計のフィギュア。折りたたんでいて、開けるとピコっと飛び出す仕組みは、やっぱり飛び出す絵本だね。
「これはね、過去や未来に行く道具。」
「それも、じいさんが作りたかったものか。」
「たぶん、ね。それと、」
と、僕は机から飛び降り・・・ようとして、ゴーダンに抱いておろされた。
トテトテ、と小さな扉に向かう。これは小さいからノブに僕でも届いたよ。
僕は、その扉を開いた。
「ここに入ると、向こうは行きたい場所なの。」
「転移するんですか?」
ヨシュ兄の言葉に頷く。魔法で転移することができる人がいた、という伝説があるから、僕の説明でもわかったんだね。
「空を飛び、時間を跳び、空間を跳ぶ、ですか。すごいですね。」
ミラ姉は感心している。
うん、ひいじいさん、猫型ロボットの秘密道具を作るのが夢だったのか。さすがに僕はその夢は継げる自信がないね。
みんなひいじいさんの夢に興奮して、可能性とか、方法とか議論始めたよ。この人たちと一緒ならできたりして、なんて、僕も考えてしまった。
「あった。」
ああでもないこうでもない、と、いつもみたいににぎやかにしゃべってたら、ママが、急に言いました。
ママは、僕の開けた扉の向こうに行ったり来たりしてたみたい。
みんながママの近くに行くと、ママは、ドアを持ち上げ、クルッと反転させた。そして、裏側にされてた方のドアノブを指差す。
「あ!」
玉、
ありました。
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