第36話 1歳半編①
「ウィンロカッラー!(ウィンドカッター)」
シュパッ!
大型のイノシシに似たビッグピッグの首が飛ぶ。僕はまんざらでもない顔で、それを見る。大きな手が、わしゃわしゃと僕の頭を乱暴に撫でる。
「早くしないと臭くなるぞ。」
その大きな手が、僕のお尻を軽く叩く。おっとっと。おっさんからしたら軽いんだろうけど、僕からしたら、かなり痛い。思わず、よろめいてしまう!ムカつくんだよ、こういうの。僕は、ムッとした感情を隠しもせず、おっさんを睨む。
ハッハッハ、と、おっさんは楽しそうに笑い、
「だから早くやれって。」
と、もう一発、お尻を打とうと手を上げる。
「やめろって!」
僕は悲鳴を上げながら、慌てて、その手から逃れる。
「グラビレーション!(グラビテーション)」
僕はビッグピッグに手を向けて足を上に持ち上げる。
さっき切り落とした首から、ドバドバと血が流れた。
あれから3ヶ月。
僕は、ほぼ毎日、天気のいい日は、おっさんと狩りに出る。
それとは別に、ママとアンおばさん、そしてラッセイが一緒に狩りに出る。
ミランダさんとヨシュアさんは、3日ほど滞在し、調査の旅に出た。
僕は、ずっと続けた筋トレのおかげか、この年で、森の中を歩けるようになっている。外から見たら、ヨチヨチにしか見えないかもしれないけど、平地なら走れるようになった。
魔法は、日々うまくなる。特にコントロール。魔力が多すぎる僕は、想定外の威力を出し失敗する事が多い。ゴーダンのおっさんなら、少々火力がオーバーしてもフォローしてくれる。何気にすごい魔法の使い手のようだ。これで本業はタンク役の剣士とか言うんだから、化け物過ぎる。
この隠れ家に来てから、離乳食をもらい、徐々に固形物も食べさせてもらってる。そんな僕のお気に入りが、このビッグピッグだ。
このビッグピッグ、見た目通り、ジビエのイノシシをもっとワイルドにした味なんだ。最初は臭くて硬くて無理!と思ったけど、僕は思いついた。果物と一緒に煮込むと、柔らかくなるんじゃない?確か果物の酵素が肉を柔らかくするんだよね?
幸い、パパイヤとマンゴーを足して2で割ったような果物が、この森では沢山とれる。以前から、アンとママで採集していた果物の一種だ。名をゼンゼンという。僕は、お師様を出し、ゼンゼンとビッグピッグの身を、お湯に入れて煮込んでもらった。これが大成功。ビッグピッグのゼンゼン煮込みは、ほぼ豚の角煮になったよ。柔らかくなったビッグピッグは、脱離乳食には、うってつけ。しかもゴーダン以外の皆にも大好評。臭いも、果物の匂いで消えてくれるし、本当においしいのに、ゴーダンだけは、こんなにゅるっとした腐ったみたいな肉が食えるか!て、意地でも食べないんだ。おかげで、ビッグピッグが狩れたからゼンゼンを採っていこうという僕の要望は却下。ママたちのチームがゼンゼンを採ってくれることを祈ろう。
血抜きに成功し、ゴーダンに解体されたビッグピッグを連れて、僕らは隠れ家に戻ってくる。
ママたちのチームは、もう帰ってきていて、おしゃべりをしながら、お茶をしていた。
僕は、みんなに、魔法でどうやって獣を倒したか、興奮気味に披露する。口がうまく回らず、まだ赤ちゃん言葉で応対されるのが、ちょっと悲しい。
ママたちのチームは、今日は、果物をメインに採ってきたらしい。きっと僕らがお肉を持って帰るから、と、ママが果物に執着したらしいよ。さすがママ、よくわかってるね。
あの日から3ヶ月。
そろそろ僕らの日常が、変わろうとしていた。
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