第34話 15ヶ月編⑤
「それで、その、お二人は、復讐をされるのでしょうか?その恩人のエッセル氏のために。」
長い沈黙の中、ミランダさんが口を開いた。
「そのことを含めて、おまえらの意見を聞きだい?」
え?意外だ。そんな風に驚く三人の兵士。
正直なところ、僕も少し驚いてる。
物語だと、ふつうなんて酷い、その番頭も繋がってるヒドい偉いさんも、みんなやっつけてめでたしめでたし、だろう?
僕のそんな気持ちを読んだのか、ゴーダンは、優しい手つきで僕の頭を撫でた。
「俺たちは13年前、それで失敗した。」
再び、兵士たちが驚いた表情。
「復讐、その他事件になれば、何か情報もあると思うのですが。」
ヨシュアが、言う。
もっともだ。でもなにげに自分の情報収集能力、過信してない?この世界、そう簡単には情報集まらないと思うけど。
「よしな、ゴーダン。失敗したのは、私だけだよ。ゴーダンの奴は反対したんだ。」
「どういうことです?」
「あの時、私はすぐにも本邸に乗り込み、カバヤの野郎を殺そうと提案した。アイツのことは知っている。ちょっと脅せば、繋がってる奴のことだってペラペラ喋るだろう。でも、ゴーダンは反対したのさ。ミミセリア様はどうする?パーメラ様から託されたのだろう?ミミセリア様を無事成人させるのが、一番だ、てね。」
うわあ。意外とおっさん冷静。僕の心象と逆じゃん。冷静なアンおばさんに、いい加減なゴーダンのおっさん、と、思ってたわ。
「私たちは大喧嘩し、ゴーダンは出て行った。」
え?まさかのおっさん逃亡?二人を置いて?僕はジト目でおっさんを見た。
「俺は、俺がいなければ、アンナもミミセリア様、いやミミを優先して、復讐を後回しにする、と、思ったんだよ。まさかミミごと乗り込むと思うか?」
「ほぉ、それは初耳だね。」
「俺がいなければ、ミミが大きくなるまで数年、ここか、どこかしら安全なところで、暮らすだろう。そう思って、その間、俺は情報収集をしようと、ここを出たんだ。まさか半年保たないとは思わなかったしな。」
苦笑なのか自嘲なのか、ゴーダンは鼻でフフンと笑った。
「どういう?」
「アンナはミミをつれて、ダンシュクの町に戻りやがった。」
「はじめはただ屋敷に怒鳴り込むつもりだったんだよ。」
アンおばさんは苦虫を噛んだような顔をした。
「それがどうして、ミミともども、家畜奴隷なんかに・・・」
「たった半年足らずで、本邸も商会の方も一変してた。用意周到に人員も一変だ。知ってる顔はないし、奴隷なんて抱えて、労働力にしてやがる。奴にそんな才覚あるもんか。こりゃ、一筋縄ではいかないと、さすがに思ったよ。だが、幸い奴隷縛りをしているのは、奴隷契約じゃないのはすぐに分かった。家畜用の所有の首輪を足にしてるだけだ。あれなら容易に破壊できる。情報収集するために懐に入るには手っ取り早かったのさ。」
「家畜奴隷か。まったくむちゃくちゃだな。そこでダーをこさえられてるんだから、笑えねー。」
アンはさらに顔を歪め、押し黙った。
「・・・敵は頭も権力も行動力もある誰か、だと?かなりヘビーなターゲットですね。」
ミランダさんが言った。もしかして、ヘンなスイッチでも入った?やる気マンマンの顔してるよ。怖ぇ~。この世界の女性って、もしかして沸点むっちゃ低くない?
「そうは言っても、お二人のことです。ターゲットはしぼれてるんでしょう。」
ラッセイが、キラキラ笑顔で言う。うん、考える気ないね。爽やか好青年風だけど、ちょっとおつむが残念なのかな?
「しぼれてるっちゃあしぼれてる。」
「誰です?」
「ザンギ子爵だ」
「理由を聞いても?」
ヨシュアが、聞く。
「まず、奴は先代が目の上のたんこぶだった。知っての通り、奴はダンシュクの領主、というか代官だ。ワーレン伯爵に命じられて、治めているに過ぎない。」
知ってるのだろうか、兵士たちは頷く。
「何かと政に口を出す先代とは犬猿の仲だった。そこで先代を抹殺し、あわよくばナッタジの権益を奪えるなら、あのくらいやるだろう。」
「誰が、得をするのかを考えると自ずとしぼられる、ということですか。しかし・・・」
ヨシュアが、口を濁した。
「なんだ?」
「小物感が半端ない、ですね。」
うーんと、ゴーダンは唸る。
「一応トレネーの貴族として、名前は存じてますが、目立った功罪もなく、それ以上のデータはありません。」
ヨシュアさん、自分の認知外の人は、小物扱いって、どうよ?
「まぁ、俺が知る中で一番怪しいのがザンギ子爵てだけで根拠はねえ。番頭風情が接触できる大物として思いつくのが、自分とこの代官、てのが、せいぜい根拠だ。忘れてくれていい。」
「なるほど。それで、改めて伺いますが、この集まり、ナッタジ家の復讐をどうするか?という集まり、という認識でよろしいですか?」
ヨシュアさん、報告修正。そういえばそういう話だったな。
「復讐するかどうかを含めて、今後の方針てとこだ。」
「というと?」
「正直言うと、俺は復讐なんか忘れて、真っ当に稼いで、ミミやダーに人間らしい暮らしをさせてやりたい。」
へぇ、なんか、おっさん、考えてくれてるんだな?
「私は、商会をミミに返してやりたいんだ。そして先代が築いた愛される商会を取り戻して欲しい。今のナッタジ商会は、町の鼻つまみ者になっちまってる。情けなくて涙も出ない。」
アンとゴーダンがお互いに睨み合う。
13年前もこうだったんだろうな、と、僕は思った。
「ミミはどうしたい?」
変な空気になる中、ミランダさんが、ママに振った。ママは、この話に口を挟むことなく、じっと聞いていた。
「私は、商会のことは分かんない。家族が殺された、と言っても、記憶はないし。でも、私は、アンが、いつも私のことを一番に考えてくれてるのは、知ってるよ。私の家族はアンだけ、ずっとそう思ってた。」
ママは、僕の見て、頭を優しく撫でた?
「ダーが産まれて、私にもう一人家族ができた。私は、ダーを守りたい。ダーを幸せにしたい。それを一緒に考えてくれるのも、アンだけだった。アンはね、私が知の精霊様の加護を受けてるから、お勉強すればなんだってできるようになる、て、言うの。でも、ダーが産まれて、ダーは特別賢いから、ダーの為にも環境を整えるべき、て、よく言ってたの。環境ていうのは、おうちがあって、先生がいて、夢に向けて歩んで行ける場所なんだって。今までのお話聞いて、アンはダーのために仇をうって商会を取り戻そうとしてるんじゃないかな、て、思ったの。アンがそれが良いっていうなら、私は、それを信じるの。」
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