第32話 15ヶ月編③
「まぁ、落ち着けアンナ。俺も聞いたときは驚いたが、とにかく話をきいてくれ。んでもって、13年前の件、ここの全員で知識を共有すべきだと俺は考えたんだ。まずは、こいつ=ヨシュアじゃなく、俺の判断を信じるかどうか、考えてみてくれないか。」
「あんたの判断?」
「ああ。俺はこいつら3人を信用している。秘密の共有をしてもいいと。その先何か行動を起こすにしても起こさないにしても、共に考える仲間として必要だ、と考えている。」
「・・・あんたはまたあたしが間違ってる、というのかい?」
「・・・どうだろうな。あのとき、おまえさんがミミを連れて行ったからこいつがいるわけだしな。」
ゴーダンは僕の座っている左腕をちょい、と上げた。
「・・・その件は・・・悪かったと思っている。不在をつかれたとはいえ、守り切れなかった。」
「誤解するな。ダーのことは責めてるんじゃねぇ。むしろこんなガキがいるってことがパーメラ様の正しさじゃねえかと思ってるんだ。」
「ダーは・・・この話はよそう。13年前の件を共有するにしても、子供達が寝てからだ。」
「おいおい。子供達ってのは、ミミも入ってるのか?本人の話だ。ミミももう14だろ。1年もしないうちに成人だ。しかも立派なダーの母親だろ。こいつら二人の話だ。蚊帳の外、てわけにいかないだろう。」
「はぁ、何言ってんだい?まだ1年もあるよ。話すならその後だ。」
「あのアン?なんのことか分からないけど、私、聞きたい。」
「子供は黙ってな。」
「ダーのことも関係あるって。お願い。なんのことか分からないけど、私、知らなきゃ。」
「・・・ミミ・・・」
「まぁ、なんだ。言いたくないが、おまえさんが実家飛び出したのは13の時だろ?ガキだから云々言われて引っ込められる年齢か?」
「それは!・・・まぁ、いい。ミミのことは分かった。だがその子は?赤ん坊の聞く話じゃないだろう。」
「はぁ、こいつ?それこそ赤ん坊だろが。まだ言葉を話し始めたばっかのガキの前で、小難しい話の何が分かる?」
「あんたは知らんかもしれないが、その子は聡いんだよ。」
「はぁー。なぁ、ミミよ。おまえさん、ちょうど今のダーぐらいの頃、ここでしばらく住んでたんだがな、覚えてるか?」
「住んでたって話は、アンから聞きました。ダーの使ってるベッドは私のだよ、て。でも、私馬鹿だから全く覚えてなくて・・・」
「だよな。馬鹿だからってんじゃないさ。赤ん坊の頃の記憶なんて、誰も覚えちゃいない。おいおまえら、おまえらは覚えているか?」
兵士3人組にゴーダンは話を振った。みんな首を横に振る。
「ほらみろ。こいつがここにいても話なんてわからないし、記憶になんて残らない。別にここにいたっていいじゃないか。」
「だったら、先に寝かしつけてからでもいいじゃないか。」
「おいおいアンよ。何ムキになってる。」
「ムキになってるわけじゃない。本当にその子は聡いんだよ。私は、ミミの知恵の精霊様の依り代になっているんじゃないか、て、思ってるんだ。」
「依り代?」
「ミミが生まれた時、パーメラ様が言ったろ。ミミには知恵の精霊様の加護がつくって。でもね精霊様の加護があるのに、なんで助けてくれないんだって、13年前のあの時、私は思ったんだよ。それがダーが生まれて、すぐだった。この子の命の危機を精霊様が救ったんだ。そのとき思ったよ。精霊様だって魔力がなければ力を発揮できないんじゃないか。この子は生まれながらに魔力が大きかった。この魔力を借りてはじめて顕現できるんじゃないかって。精霊様はね、この子が起きているときに、その側でないとお力を発揮できないんだよ。」
え、そういう受け止め方?僕=精霊様にはならないんだ。良かったような、なんか複雑な気持ち。
「・・・ま、あれだな。知恵の精霊様とかいうぐらいだ。俺たちが今後どうしたらいいか、知恵を貸してくれるんじゃないか。」
コホン、と咳払いして、ゴーダンが言った。そういう受け止め方ね、ていう感想はゴーダンのおっさんも同じようだね。
「あの、アンナさん、僭越ですが、よろしいですか。」
おずおずとミランダさんが口を挟む。
「なんだい。」
「あの、隊長はですね、口でなんだかんだ言ってますが、単純にダー君を離したくないんじゃないかと。」
「は?どういう意味だい?」
「僕もそう思います。」
ラッセイも言った。
「ほんと、ダーダーダーダーうるさかったですから。」
「な、何言ってんだおまえら!」
大きく頷く3人に、焦った声を出すゴーダン。うわぁ、引く~。ツンデレ、ツンデレなの?いや逆か?本人にツンで、いないところにデレって、これどうよ。
(おい、誤解すんなよ。俺は、ただおまえさんにも話し合いに参加せてやろうとだな、)
(はいはい分かってますよ。僕のことだぁいしゅきなんですよね。あ、噛んだ。)
(おまえなぁ・・・)
「僕、聞くでしゅ!」
僕はおっさんの助け船に、と、無邪気に手を上げて、言った。
おぉっ、と兵隊3人組の顔がデレる。かわいいっとミランダさんがつぶやいてるよ。
「ま、本人もこう言ってるし、うまく行きゃ、精霊様とやらの意見も聞けるんだろうさ。とにかく、俺たち張本人よりも、客観的に掴んでるヨシュアの話、聞こうじゃないか。あ、今更とは思うが、かなりヤバイ話だ。聞く聞かないは自由。深入りしたくないやつはしばらく散歩にでも出ててくれ。」
「本当に今更ですね。」
「僕はゴーダンさんについていくだけです。」
ミランダさん、ラッセイさんが口々に言う。ヨシュアさんは話す方だし、全員酔狂な人って事で。
ヨシュアさん、そんなみんなの様子を見て、にっこり笑い、クイッと眼鏡を持ち上げる。
「では、13年前の事件の概要ですが・・・」
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