第26話 1歳編⑨

 僕はお師様としてママと話した。と言っても、僕もママも、ゴーダンさんをすっかり信頼している。ママは、ダーのお気に入りのゴーダンさん、とか言ってたけど、そんなんじゃないのにな。ママ曰わく、僕がママ以外で懐いたのはアンとゴーダンだけだそう。おかしいな?情報収集の為にあちこちで愛想振りまいて、抱っことかスキンシップとか、色々させてあげてたんだけど・・・


 どっちにしても、僕らに後はない。1年の猶予が消えて、今にも奴隷契約が行われる。ゴーダンを信じて裏切られたとしても、現状悪化するわけではない、と思おう。

 そんなわけで、ゴーダンの協力をお願いするとして、彼の指示に従うことを確認した。



 翌朝。

 目覚めると同時に、ゴーダンが僕の抱っこを求めてきた。僕の都合は関係なく、ママの腕から、おっさんに渡される。おっさんは、あやす振りして、念話で語りかけてきた。


 (おそらく、ご主人は、俺を護衛に領主の所へ行く。自分の財産を守るため、未成年の奴隷契約をしようと思ってることを伝えるためだ。こんな報告義務はないが、直接の上司の知らないところで、色々動くと、探られたくない腹を探られるのが貴族ってもんだからな。)

 その辺の機微は、僕にはわからないや。

 (その後、ご主人は王都に向かうだろう。格の高い奴隷商人は、王都にしかいないからな。先触れを出して、本人が向かい、丁重にお迎えする、て、段取りになると思う。)

 なんだよ、格の高い奴隷商人て。変なの。でも僕らを連れてくんじゃないんだ。

 (契約済むまでの危険を考えると、迎えるのがベターだ。そうでなくても俺がそうさせる。主人とお前らの両方は守りきれん。当然、護衛として俺はついていけってなるだろうからな。)

 ふうん。

 (王都行って、なんだかんだ用事を終えて帰ってくるまで、早くて1ヶ月。この間に、おまえさん達は逃亡する。)

 え?手伝ってくれるんじゃないの?

 (帰ってきたら、俺は間違いなくクビになる。そうなったら、即合流できるように段取っとくから、そう不安そうな顔をするな。)

 ・・・

 (逃亡時期は、その時がくれば分かる。ここだなって、おまえさんなら分かるハズだ。もしわからなかったとしたら、・・・計画そのものがおじゃんだな。ヒヒヒ。)

 何ソレ?僕の負担大きくない?1歳児に何要求してんの?

 おっさんは、ずっとイヒヒって笑い続けてる。

 ま、何とかなるんだろ。

 どっちにしろ、むちゃくちゃな計画だ。


 おっさんは、僕をぐちゃぐちゃに撫で回して堪能すると、ママに僕を返す。



 その後、おっさんとこの屋敷で出会うことはなかったんだ。

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