第21話 1歳編④

 男は、一番戦闘の激しい、門付近へと走った。

 「坊主、俺が合図したら、両手を敵に突き出せ。いいな。」

 僕は頷いた。

 「よし、良い子だ。」

 満足げにそう言うと、現場に到着する。

 門の前は、屋敷の警備兵が5、6人、覆面を被った敵も同じくらいが入り乱れて戦っていた。剣と剣が打ち合わされ、魔法が放たれる。小さな火の玉を剣ではじく。そこへ水のカッターが襲いかかる。

 魔法を使うのは詠唱がいるのか。スピード勝負では剣が優勢?威力、特に遠距離は魔法が有利か?

 「ほらほら、こっちを見てみな、人さらいども!」


 そんな風に現場を僕が観察していると・・・

 ちょうど魔法を避けようとして、すっころんだ警備兵の前に身体をねじ込み、飛んできた風魔法を剣ではじいた男は、突然、大声でそう叫んだ。

 !

 風魔法を放った敵らしい覆面が、息をのんだ。

 ?

 僕?

 そいつは僕を驚きの表情で(覆面で顔は見えないけど、向けられる感情でね)見てる。

 「いたぞ!」

 そいつが、仲間に向かって叫んだ。

 え?僕?やっぱり僕なの?

 僕は、男を見上げる。

 男は今日一番の笑顔を向け、ウィンクした。

 いや、いらないよね。強面のおっさんのウィンク、誰得くよ?

 「ターゲット1名発見。」

 その言葉に、お仲間全員の意識が僕に注がれる。

 え、おっさんよ。僕、おとりなの?おとりにするために、1歳の赤ちゃんを戦闘まっただ中に連れてきたの?

 僕と、同じ感想を持ったのだろう、こちら側の警備兵も男に対して、どういうつもりだ!という感情をぶつける。

 「ダー、腕を前へ!」

 一瞬、動揺した戦場の中、ぴくっとなるような声で、男が怒鳴る。

 条件反射のように、僕はパッと腕を突き出した。

 男が口の中で早口に何か詠唱する。

 先ほど、道を作ったときのような熱いうねりが僕の中を駆ける。

 ダダダダダ・・・

 突き出された両手から、熱いうねりが出ていくのを感じるやいなや、手のひらから何かが放たれる。

 男は僕を銃か何かと思っているのか、抱えた自分の身体ごと動かし、手のひらが敵に向くように振り回した。

 僕の手のひらから放たれた、その塊は、男の思惑通りなのだろう、バタバタと敵に命中。あっという間に、全員が地面に沈んだ。



 「ゴーダン隊長、どういうつもりですか!」

 何するねん!と、味方からもそうツッコミの感情をぶつけられた男に、一番離れたところにいた女性の警備兵が、カンカンの表情で、走ってきた。

 「おお、ミランダ。いいところに。俺、この坊主を屋敷で保護せにゃならんのだわ。ここの後始末、よろしく頼むわ。」

 「どういうつもりか、と聞いてるんです。」

 「いや、どうもこうも、全然片付かないから心配になって来てやったんじゃないか。なぁ、ダー?」

 いや、僕を巻き込まないでよ。

 「赤ん坊でごまかさないでください。だいたい、その子、保護対象ですよね。こんな最前線につれてきてどういうつもりですか?」

 「いや、置いてくる時間がない、というか。」

 「でも、隊長、その子おとりにしましたよね?」

 別の隊員がつっこむ。

 「はぁ?なんか言ってるな、とは思ってたけど、おとりですって?」

 「そんな目くじらたてるなって。十分勝算はあったし、守り切る自信も満々だったんだからな。」

 「隊長、その子、盾にしてましたよね。」

 と、また別の隊員。

 ミランダ、と呼ばれた女兵士の顔がずんずん怖くなっていく。

 「はぁ?おとり?」

 「いや、違うって。そもそもダーがママを守る力が欲しい、つぅから連れてきただけであって、だな。」

 「その子、赤ちゃんですよね。そんなこと、その子が言えるわけ無いじゃないですか。どうせ長引くのが嫌、程度の理由で、片手で持てるおとりを使ってまとめて撃破、なんていうめちゃくちゃな戦法を思いついたんでしょ?」

 え、まじで?

 (そんなわけないだろ。魔法の使い方、今ので参考になったろうが。)

 僕の驚愕に、慌てて念話で否定する。

 「あぁ、結果良ければすべてよし、だ。とにかく解散。ミランダ中心にならず者を確保。後は、ご主人に丸投げ。以上!」



 今まで格好良い大人だ、なんて、この部下さんに対しては思ってたけど、ちょっと、ねぇ、なんて思わなくもない。でも、解決したのも、僕が無事なのも、結果的とはいえ、僕にママが守れたのも、この人のおかげだ。

 僕は、僕を抱くこの男の顔を見上げる。男は良い笑顔で、僕の両脇に両手を突っ込むと、高い高いをしながら、屋敷に向かって歩き始めた。時折、そのまま空中に投げ上げられつつ、高い高いは続く。

 なにげに、高い高い、初体験だな、なんて思いながら、僕は男に身を任せたのだった。

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