第18話 1歳編①
僕らがミサリタノボア邸に来てしばらくたった。
僕は、随分と会話ができるようになったよ。喃語を間もなく卒業といったところ。
僕らは、快適に生活をしている。うん、表面上は実に快適だ。
ご主人様は、僕らをとても大事にしている。大事に大事に愛でている。そう、まるで美術品のように。ハハ、まるで、じゃないね。僕らは美術品として、この屋敷に連れられて来られたらしい。
この屋敷に来て、すぐに知ったこと。
ご主人様が愛でるために買った人間は、僕らだけじゃない、ということ。
愛でる、と言っても、エロいことを考えているんじゃないよ。むしろ、そういう目で見ることは無粋だと言って、ご主人様はたいそう嫌がる。
良い意味でも悪い意味でも、ご主人様は貴族だ。そして貴族の矜持、というものをとっても大切にしている。やれ誇り高くあれ。やれ人の模範たれ。やれ無粋は許さぬ。
ママが助かったのは、未成年だったから、奴隷契約をされなかったこと。他の同じ立場の人たちはみんな成人して、奴隷契約を結ばされている。奴隷自体は悪しきものとはされず、質の良い奴隷をたくさん持つのは、むしろ貴族として力を示すために好ましいらしい。ママや僕は、(ご主人様曰く)とても容姿が美しく、濃いしかも珍しい髪色を持つため、とても質の良い人間なのだそうだ。こんな僕らを奴隷として召し抱えるのは、ステータス的に相当良い感じ、らしい。そもそも髪色は上級貴族であればあるほど濃く、珍しいものが良い、とされる。これはそのまま、魔力の量と質に比例するから。でも、生まれながらのものであるから、貴族でも、その点残念、なことが多々ある。そこで考え出されたのが、そういう髪を持つ人間を保持する者は、自分がその髪であるのと同じ価値を持つ、という、とってもまどろっこしいステータス。確保の仕方はいろいろある。部下にする、使用人にする、奴隷にする。
その中でも奴隷にすることができるのは、最大のアドバンテージがある。奴隷契約をすれば、契約を解除しないかぎり、自分の所有物として、自分から離れることはできないから。そう、ずっと自分のステータスとして誇っていられるわけだ。部下や単なる使用人なんかだと、主人を代えるなんて簡単なことだからね。
ま、そんな感じで、僕とママは「上質な人間」として、ご主人様の物となったわけだ。ご主人様は、僕らにきちんと栄養を取り、毎日風呂で身体や髪を磨き、常に美しくあるように命じられた。そして、人前に出すため、ママには礼儀作法のレッスンに大半の時間が割かれるようになった。また、逆にいっさいの家事を禁じられた。繊細な肌の状態を保つべく、掃除も炊事も、庭で花を摘むことさえ禁じられた。
ママは、毎日、礼儀作法のお勉強。僕は同じ部屋でちょこんと座って、その様子を見ている。
カトラリーの使い方。お辞儀の仕方。目線の位置。手の位置。立ち方に座り方。あくまで使用人としての立ち居振る舞いを徹底的に。
どうせお勉強をするならもっと役に立つことをすればいいのに。文字とか計算とか、やることあるだろうに。僕は、不満に思いながら、先生を見やる。
先生はメイドの一人。たぶんメイドの中では偉いであろうおばさんだ。髪色は、濃くはない。でも、あの家畜小屋の住人や村人ほどパステルじゃない。スカイブルーというにはちょっと薄いか?そんなに魔力は高くない。
僕は、テレパシー能力がさらに開花して、人の魔力と質、というべきものがなんとなく分かるようになっていた。テレパシー、と、思ってたけど、この能力は鑑定の一種かもしれない。役に立つか、て言われると微妙なところ。何度も聞かされた髪色についての検証、にはなったかな?程度。だって、髪の色を見れば、魔力の量は大体分かるし、どんな魔法が使えそうか、ってのも髪色でわかるからね。ちなみに先生役のメイド(名前はパリー)は、うっすらと水系の魔法が使える。うっすら、というのは、山小屋の水道、ていえば分かるだろうか。チョロチョロとあんな感じで水が出せる。水のないところでは、かなり重宝される魔法、らしいよ。
まぁ、パリーの能力はそんな感じ。なので、少々僕が力を使ったところで、ばれる心配はなさそうだ。
で、申し訳ないけど、この人の考えてることを探ってみた。
(きれいなだけのお人形が、私の手を煩わせるんじゃないわよ。どうせ使えもしないのに、本当に宝の持ち腐れね。成人したら、奴隷契約で一生魔法とは無縁のお人形になればいいわ。ふん、いい気味。)
取り澄ました無表情の下はこんなもの。正直、魔力の流れがどの程度普通の人に分かるか不明。なもんで、髪色の濃い人の前では、テレパシーとかその他諸々、使わないように気を使っている。僕らがどうやって自由になるか、まだまだノープランだけど、知恵も力も何もない愚かな子供、と思わせる方が、成功率は上がるはず。あくまでもあどけない赤ちゃん、それが僕でなくちゃ、ね。
でもまぁ、パリーは役に立つ。
ママは若くて綺麗、仕事はむしろしちゃいけない、なんて待遇で、パリーは少なからず嫉妬心を持っている。けど、僕に対しては別。お人形のようにかわいい赤ちゃん。やっと言葉をしゃべり始めたヨチヨチ歩きの赤ちゃん。ニコニコしながら自分に向かって歩み寄り「パリーしゃん!」なんて舌足らずに言われたら、もうふにゃふにゃだ。あざといって?これも生きるため、だよ。
てな感じでパリーはダーにベタボレです。
赤ちゃんの何何攻撃に目くじらたてるほど、人でなしじゃないし。
「これなあに?」
「なんで、○○は××なの?」
の質問に、表面上は無難な答えをしつつ、心の内では正解を答えてくれる。
「どうして、ママはお行儀のお稽古ばっかりするの?」
「お行儀がいいとママはみんなに好き好きって言ってもらえるからよ(他のお勉強はむしろ害悪。お馬鹿の方が言うことを聞きやすい)」
「ご主人様て、ママ好きなの?僕のパパになる?」
「ご主人様はみんなが好きだから、パパはどうかな?(なるわけないわ。あんたのママは成人したら正式に奴隷になるのよ)」
「魔法、どうやって使うの?」
「いい子にしてると使えるようになるわ(残念だけど、誰にも教えられずに、奴隷契約で使えなくされるわ)」
・・・等々
ここで分かったのはタイムリミット。ママが成人になったら奴隷契約される。あと1年か。そして奴隷契約したら、魔法を禁じられる。さらに魔法を使うには誰かに教えてもらわなくちゃならないもよう。
僕は何度となくパリーに魔法使いたい攻撃をして、心の声を収集するうちに、どうやら、魔力の通り道を開ける必要がある、のではないか?て、推測するようになったんだ。
でも待てよ。案外、僕の能力を使えば、できるんじゃない?だって僕、魔力の量や質が見えるみたいなんだから。オーラ?とでもいうのかな、注意深く見るとうっすらとした後光を感じるんだ。そしてそれをさらに注意深く見ると、どうやら感情に連動して、フヨフヨと変化する。パリーや他のメイドさんにおねだりして魔法を使って貰うと、このオーラみたいなフヨフヨが指向性を持ち、ブワッと膨れ上がったり濃密になったりして魔法が発動する。
この一連のオーラの動きが魔力なんじゃないかな?そうだとしたら、僕には「見える」というアドバンテージがある。コレの動かし方を何とか見つければ、魔法を使えるようになるはず。どうやら僕には、虹色の光の分だけ多彩な魔法が使えるはずだから。その中には、きっと逃亡に役立ちものがあるはずなんだ。
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