第17話 生後9ヶ月編⑦

 出発日。

 早朝、朝ご飯を食べた僕らは車止めに連れて行かれた。すでに馬車はスタンバイ済み。宿のスタッフや部下2人組のおじさんたちで、荷物の積み込みをしていた。


 僕らを数日ぶりに見た部下さんたち。僕ら(といってもママだろな)を見て、一瞬固まる。フフン。ママきれいでしょう?僕はちょっぴり鼻高々に、彼らの様子を見る。部下さんたちだけじゃなく、お手伝いしてた人や、たまたま居合わせた人たちも、チラチラ僕らを見てる。

 今、僕らは、質素だけど清潔な服を着ているし、夕べは水浴びで、石鹸も使ってもらったんだ。女中さん達が、これでもかと、ママの髪を櫛でといて、綺麗な髪は、さらにさらに綺麗になってる。

 「二人とも、ビックリするぐらい可愛いいでしょう?」

 なぜか自慢げな女中さん。

 「これは驚いた。ここまで変わるかね。」

 部下で強面の方の人が顎を撫でつつ僕らを上から下まで見てくる。変な感情はなく、関心してるのが分かるから、ジロジロ見られても、そんなにイヤな気分じゃない。うちのママ、すごいでしょ。そんな自慢しか感じない。


 そんな感じで、作業中断した帰宅準備だけど、宿のエラい人の一声で、再び作業再開。何故わかるのか、作業終了と同時に、ご主人様がやってきたよ。


 ご主人様は、僕らを見て一瞬目を見開いた。

 でもすぐに、満足げに僕らを見て頷く。

 「さ、早く馬車に乗りなさい。明日には家に着きたいからね。」


 


 僕らを乗せた馬車は、来た道を走る。当然、僕の産まれた商人宅の前を通り、家畜小屋を過ぎ去り、畑を抜け、2度ほどママに背負われて訪れた村も抜け・・・

 馬車が走るのは、ずっと森の中。


 森には、獣や魔獣がいる、そう女中さん達に聞いていたけど、出会わなかった。それなりに他の旅人もいるから、道を外れなければ、襲われる心配もないのだろうか。


 途中、小さな町に立ち寄る。どうやら街道沿いの宿場町として作られた町みたい。僕らはこの町で一番大きな宿に泊まった。今回はご主人様の部屋に付属した使用人部屋に泊めてもらう。一番大きい宿といっても小さな町なので規模も小さい。独立した使用人部屋はないようだ。でも貴族様御用達のお宿だから、VIPルームには使用人用の小部屋が複数ついている。部下のおじさんたちは一人ずつ、僕とママで一部屋、それだけ分けてもまだ部屋は余っている。

 食事と寝るだけ、の宿を、翌日早めに出発。次の日の夕方には、ご主人様の屋敷へとついたよ。


 うん。屋敷。

 前の飼い主の家もデカいと思ったけど、ケタが違う。屋敷ってか、お城だね。庭も庭園!て感じだし。


 僕らは、到着すると、メイドさん(!)に連れられて、同じ敷地にある別棟へと連れて行かれた。また家畜小屋かな?そう思ったけど、ていうかママは奥に見えていた家畜小屋に行こうとして、メイドさんに腕を掴まれてたけど、普通に別棟へと連行されたんだ。

 メイドさんは、僕らを小さな部屋に連れて行った。ベッドと机と椅子が2つ。片隅に二人掛けベンチ?と思ったら、どうやら衣装箱らしい。窓もないその部屋にいったん僕らを放置して出ていったメイドさんが、数着、ママや僕の服(と思われる)をその箱に入れる。

 入れ終わったメイドさんは、ママについてくるように言う。ママは言われるがまま、僕を抱いてついていく。そこは食堂のようだった。大きなテーブルが2つ。椅子が一側面に5脚か6脚。ママは、パンとスープとサラダを渡されて、食べるように言われた。おとなしくママが食べ終わる。


 「さっきの部屋は分かる?」

 メイドさんが食べ終わったママに聞くと、ママは頷いた。

 「じゃあ、あの部屋に戻って、今日は寝なさいね。明日、また迎えに行くから。」

 なんだかちょっと無愛想。

 でもいいんだ。僕とママだけで一部屋もらえた。今日だけかもしれないけど。

 そして翌朝。

 やっぱりこの部屋は僕ら二人で使っていいようで・・・

 屋根があって、温かい食べ物があって、服だって清潔で。

 人生、好転したんだろうか?

 僕もママも、嬉しくなる。

 

 が、それも長くは続かない、それを知るのはもうちょっと経ってから・・・

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