第12話 生後9ヶ月編②
ま、そんなこんなで、家畜小屋の外にナイトキャップを被った集団がいたって話。
なんでかって?
僕らの乳母とも言える牛乳をくれる動物、あれモーメーて言うんだけど、体毛が羊みたいにクリンクリンのモフモフなんだよね。で、その使い方も羊毛と同じ。暖かくなってきたら毛を刈って売るんだって。見た目だけじゃなく牛と羊を兼ねてるなんて、家畜として本当に優秀。まだ、僕らにとっては寒いけど、ある程度寒いうちに毛刈りをしないといけないんだ、とはアンの言。白く見えるけど、本当は体毛は透明で中空なんだって。暖かくなるとこの中空部分に皮脂が入って色が悪く、また、染まりにくくなる、らしい。本当にアンは何でも知っている。僕の記憶じゃ、確か地球のシロクマも、毛は本当は透明、じゃなかったっけ?もうあんまり記憶、ないや。
そんなわけで、本日は同居人ほぼ総出でモーメーの毛刈りを行います。
必死の筋トレ?のおかげか、ハイハイは完璧、つかまり立ちによちよち歩きもマスターしつつある僕としても、間近で見たいイベントです。今日ばかりはママの手を離れ、最前列の位置をキープだ!
モーメーは一匹ずつ外に連れてこられます。男が6人がかりで足や胴体、首回りを確保。強引に背中を地面につけたよ。で、おなかを上に出し後ろからはがいじめして座り込んだ男を中心にちょっとずつ足、脇、背、の順で刈っていきます。刈られ始めると、意外とおとなしい。まぁ、押さえどころで、どこか、おとなしくなるスポットがあるのかもだけど。
そんな感じで丸裸にされたモーメーはうっすらピンクの地肌を見せつつ、毛刈り終了。無事羽交い締めから解放されると、小屋へ戻されました。人間と同じくらいの数いるから、さすがに1日では終わらないね。1週間ぐらいかけて、全モーメーの毛刈りを行うみたいです。
僕は飽きもせず、特等席で3匹目となる毛刈りショーに夢中になっていました。たまにそんな様子の僕に笑いかけた毛刈りを行っているおじさんが「やるか?」といって、押さえるところや、鎌に手をかけさせてくれます。キャッカキャッカと喜ぶ僕におじさん達も笑顔。刈られた毛をせっせと加カゴに集める女達も、やっぱり笑顔。貧しいながらも楽しいひととき。お天道様もぴかぴか頭上で輝いて、心も身体もぽっかぽか・・・
「だんな~、こいつでさぁ。」
そんな幸せ感がフラグになったんだろうか?僕の身体がひょい、と掲げ上げられ、頭に被った帽子が取られると同時に、人混みの向こうに向かって、僕の身体がゆらゆらと振られた。うっ、気持ち悪い。何するんだよ!
周りのみんなも、あっけにとられ僕たちを見ている。けど、そんなことは気にもせず、小屋の裏にむかって僕を振り続ける男。
「なんだいあんた?」
おそらく畑に向かう扉から勝手に入ってきた複数の男達に、アンが誰何した。けど、そんなものはどこ吹く風。ずんずん、と、入ってくる男たち。
「おい!」
さらに言いつのるアン。これも男達は無視。
「ほぉ、これは、予想より・・・。」
男達は全部で3人。そのうちの真ん中で1歩前を歩く、一番偉そうな男が、明らかに僕を見ながら近づいてくる。僕を片手で振り回していた男、(よく見ると、ママに色目使って僕を目の敵にするゴウじゃないか、)は、愛想笑いを浮かべて、僕の頭をその男に突きだした。
「ほぉ、としか言えんなぁ。素晴らしい。まさにアレキサンドライトだ。美しい。」
男はなめ回すように僕の頭を上から下から見る。アレキサンドライト、ってこの世界にもあるのかよ。場違いな感想が出てくるのは、訳分からん状況に頭が逃避しているのか?いかんいかん。
「ゴウ、あんた何してるの。ダーを放しな。」
アンが近づいてきて、僕をゴウの手から奪おうとした。と、後ろに控えていた男の一人が、アンの前にスッと剣を突き出す。っ!えっ?剣?うそっ!?
本物の剣を見て、誰かがヒッ、と叫び声をあげた。僕だって大パニック!
「・・・なんのつもりだい?」
ちらり、と、剣を見たアンは、僕が見たこともない顔をして、聞いたこともない声で言った。そこで興味を持ったのだろうか。僕を見ていた男が、アンの方に向き直った。
「家畜奴隷、にしては、男気がありますね。いや、失礼、女性だとは分かっているんですがね。」
「ダーを返してもらおう。」
「この子の髪の毛を隠すためなんですってね、この愉快な帽子を流行らせたのは?」
「あんたに関係ないだろ。」
「そこの奴隷から聞きましてね。」
男はゴウの方をちらりと見た。ゴウはばつが悪そうに、目をそらす。チッとアンが舌打ちをするのが聞こえた。あの話し合いの時、家畜世話チームにゴウはいたのか。そんなに大きな声ではなかったけど、アンの解説が耳に届いていてもおかしくはない。当時知らなかったとはいえ、ホームと思い不用心すぎた。
「あなたが、どんな経緯で奴隷にまで身を落としたのかは知らないが、良く魔力についてご存じのようだ。いやね、私はトレネーの貴族でしてね、たまたまダンシュタに向かう道すがら興味深い格好をした村人たちを見つけて声をかけたんですが。うん。この帽子もよく考えられている。まともな布を使ってデザイン性を上げれば十分商品になりそうだ。そこでですね、村人に問いただすと、この帽子は元は奴隷達が着ていたものと言うじゃないですか。どういうことだ?と改めて聞くとですね、どうやらモーメー刈りをサボった奴隷が村に来てるということで詳しくはそれに聞けと。」
「いないと思ったら、ゴウ、サボって村に行ってたのかい。」
ギロッとアンが睨むが、ゴウはそっぽを向いたままだ。
「寒さ避けに重宝してみんな着ているが、もとは赤ん坊の髪の毛の色を隠すために精霊が与えたものだ、というじゃありませんか。詳しく聞くと、その赤ん坊、黒とも見える深い緑の中に、赤・青・黄と七色の光がきらめく珍しい髪色をしているとか。その子は奴隷の産んだ奴隷だそうで。これは手に入れねば、と、大急ぎで来た次第ですよ。」
「どういう意味だ。」
「もちろん、この子を持ち主から買い取ります。」
「ダメーっ!!!」
その時、ママの悲痛な声が響いた。全員の視線がそちらに行く。ママは悲痛な顔をして、こちらに走り寄ろうとしており、周りの仲間達に押さえられていた。
そんなママを見て、一番エライ男が小さく、ほぉっとつぶやいた。
「ダーを、ダーを連れて行かないで。」
「ふむ。お嬢さんは、この子のなんでしょう。」
「ダーは、ダーは私の赤ちゃんよ!」
「母親、ですか。うん、磨けば光りそうな美しさ、ですね。赤ん坊の世話係にはちょうどいいでしょうし。よろしい、君もついでに買い取りをしましょう。」
「ちょっと、なんだって。」
「あぁ、あなたはいりませんよ。見たところ知恵も力もありそうだし、余計な警備の手間は無駄にしかなりませんからね。」
「私は強いよ。あの子達親子の安全を保証してくれるなら、あんたに忠誠を尽くす。だから。私も・・・」
「うーん。やっぱり無用です。私はリスクは負わない主義でね。どうせ、この帽子も精霊うんぬんと言って、あなたが作らせたんでしょう。こんななんの力もない子供達を必死に守ろうとするあなただ。金も名誉もいらないんでしょうね。私のコントロールがききそうにない者を懐に入れるほど、私は強くないんですよ、フフフ。」
男はそういうと、僕を部下の男にかかえさせ、もう一人の男にママを連れてこさせる。そして、悠々と小屋裏の扉から出、そこに止めてあった馬車に乗った。
僕たちを乗せた馬車はそのまま正門まで回る。男の部下が、門番を通し、奴隷売買の申し出を行うと、たまたま在宅していた商人は男達を迎えた。商人は男の提示した額に一瞬ひるんだが、すぐににこにこ笑顔で了承。こうして、僕ら親子は、住み慣れた(?)家畜小屋を後にしたのだった。
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