第11話 生後9ヶ月編①

 季節が進んで、多少寒さが和らいだ今日この頃。

 本日は、同居人のほぼすべてが、家畜小屋の外のスペースに集まっている。

 僕考案のなんちゃって帽子はすごく好評だ。赤ちゃんや小さい子だけではなく、大人も含めてほとんどの人間が被っている。いいところで紐で縛る形だから、どうしてもかわいいヒダができて、フリフリのナイトキャップみたいになる。これが女の子ならまだしも、小汚いおっさんも嬉しそうに被ってるんだから、正直、不気味だ。

 後で知ったことだが、ここの住人だけでなく、貧しい村人も、服は基本、布を巻き付けて、荒縄で縛る、という、僕からしたら原始人か、と、突っ込みたくなるようなものだけだったようだ。もう少し金を持っている人になると、貫頭衣というのだろうか、布に穴を開けて、首を突っ込むスタイルの服を着る。もっともっと金持ちだと、いわゆる服を着ている。この辺りは地球の中世ヨーロッパとか、典型的なRPGの世界を思い出すとわかりやすいか。僕らを飼ってる商人が出店している町の住人は、基本、お金を使って生活するので、このレベル、といったところ。

 まぁ、毎日卵とかを回収する人たちも、僕から言わせれば普通の服=男ならシャツにズボン&ベスト、女ならワンピースにエプロン を着ていたから、この服飾レベルに気づかなかったんだけど・・・

 ていうことは・・・今、気づいた!村の人は普通に布巻いているし、いって貫頭衣ってことは、ご近所の村ってめちゃくちゃ貧乏村ってことじゃねぇ?貧乏村でお下がりをなけなしの小遣いためたここの住人が購入している僕らは、そのまだはるか下ってことだけど・・・はぁーー。


 話がそれた。僕が言いたかったのは、僕考案の帽子が思いの外好評で、その原因が布を軽くいじって追加の費用なしに(ここ大事!)快適なものに変身するってとこ。針や糸がもあり縫製の技術は存在する。でも針や糸だって誰かが作った物で、それを手に入れるにはいくばくかの金銭が必要になる。技術を手に入れるのだって、ただじゃないだろう。僕らどころか村人でもそんな余裕はない。

 ということで、村一番の金持ちがなけなしの金で布を買う。それを紐で巻き付けて服とする。少しへたったり、新しい物をゲットすると、それを中古で売る。その中古布も着ていた人が別の布をゲットすると、再び売る。これを繰り返し、自分の経済状態でゲットできる布をありがたく着る。これの最後が、僕らの同居人の元にやってくる布たちだ。そもそも、最初に町でゲットされた布でさえ、中古品、の場合が多いんだけどね。

 そんな文化レベルだから、そもそも布を切るなんて発想はない。いや、なんてもったいないことを!と思うんだろう。でも僕の方法だとスリットを入れるだけでこの穴ぐらいなら開いていても着られるレベルである。しかももともと赤ちゃんの帽子になるぐらいの布だから、すり切れてしまって後はぞうきんになればいいね、レベルの小さな物。大人にしたって、たいした量の布はいらないわけで・・・

 でも、冬の暖房もない寒い時期。これを頭に被るのと被らないのでは防寒レベルが段違い。少し長いめに首が隠れるように布を垂らしたら、あら不思議、とっても暖かいよ、ということで瞬く間に、この帽子が同居人達に行き渡った、という次第。


 僕らが住んでいる家畜小屋は商人の庭の片隅にあるって前に言ったと思うけど、この商人の家はとっても敷地がでかくて、この家畜小屋を含んだ庭をグルッとと囲むように大人の胸の高さぐらいの塀で囲まれている。家畜小屋の裏の塀には、小さな出入り口があり、そこを抜けて村の方へ歩いて行く中間に、商人の畑がある。畑を過ぎるとカーブした道になっていて、その先が買い物に行ったりする村だ。村の奥にも道があって山に向かっているらしい。山の方にもいくつかの村や町があるとは聞くけど、どういう風になっているかは分からない。

 この商人の家は、町側にでっかい門がある。そっちが正面で、村とは反対の方向に、町へといたる道が続く。

 村や町に続く道、とか言っているけど、たいしたものじゃない。馬車が通れるぐらいに森の中の草木をどけただけの、むき出しの道だ。だから道を外れると即、森、である。この森のおかげで僕らは食いつないでいる、といってもいい。


 なんでこんなことを言ってるか、というと、はたまた帽子の件だ。冬が深くなると、畑は仕事ができない。それは村人も同じで、内職にわらなんかを編む、とか、木を彫って食器を作る、とか、まぁ内職みたいなことをしつつ、それらを町で売って小金をかせぐ。または森に入って、枯れ枝を集めたり、土の下にある虫や草、きのこなんかを食用に採る、といったことを行う。まぁ僕ら飼われている人間とほぼ同じことをするわけで、当然森やなんかは生活圏が重なる。僕らと村人は、当然触れ合ったりしないけど、大人も子供も、シュールな帽子を被っていたら、やっぱり気になるだろう。好奇心に負けた村人が、これについて聞いてくるまでに、時間はかからなかた。

 そして、・・・・村人にもこの帽子、流行中です、ハイ・・・

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