第60話


《直己》


 デートの最後に和泉がつれてきてくれたのは、ライトアップされた公園だった。 


「この公園、初めてライトアップされるんだって。友達が教えてくれたの。創立の記念らしいよ。あ、美術館は、私の趣味なんだけど」


 木々に灯る青いライトは、幻想的な風景を描き、ぽつぽつと置かれたベンチには時折カップルが座っていた。


「興味ないかなとは思ったんだけど。映画の方が良かった?」

「映画よりは好きだよ。映画も、好きだけど」


 俺たちは座るところを探しながら、池の周りをゆっくりと歩いていた。


「どんな映画?」

「ヒューマンドラマとかミステリーとか。和泉は?」

「コメディかな。アクションばっか見てたけど、多分、好きとは違う」


 ふと、要がアクション好きであることを思い出す。


「恋愛映画は?」


 だけど何事もなかったように、話を続けた。


「見たくなくて、見てこなかった」


 和泉は笑顔で息をつく。最近、穏やかで悲しげなこの表情を、和泉は良くくしていた。その度に心はざわつくけど、どこかで満たされていく自分がいた。


「でも今度ね、昔やってた作品がリメイクされるんだって。母に絶対見た方が良いって言われたんだけど」


 笑って、和泉は俺を見てくれた。


「一緒に見に行っても良い?」

「うん。誘おうと思ってた」


 途切れた言葉を引き継いで誘うと、和泉は喜んでくれた。


「楽しいか分からないけど」

「良いよ。一緒に確かめに行こう。俺も、はじめてだから。恋愛映画」


 苦笑する和泉に、そんなに不安がる必要はないと伝えたくて、満面の笑顔を見せる。

 和泉は驚いた顔をすると、そのまま顔を逸らしてしまった。

 自分らしくないことをした。それを悟られてしまったのかもしれない。そして負い目を感じさせてしまったのだろうか。だったら、違うことを伝えなければ。

 ふいに、服を引っ張られた。


「直」


 足を止めた和泉とともに、立ち尽くす。俺はただ、和泉の言葉を待った。

 和泉は静かに顔をあげて、頬を赤くして、少し空気を飲み込んで。


「好きです」


 そして、言ってくれた言葉に、嬉しすぎて。男なのに、涙がこぼれそうになった。涙と一緒に、伝えたい思いが湧きあがってくる。


「俺も、好きだよ」


 俺の言葉に、和泉が嬉しそうに笑ってくれた。

 触れた和泉の頬は雪みたいに冷たくて、柔らかくて、温めてあげたいと思った。

 和泉の顔を、目を、こんな間近で見る日が来るなんて。

 本当は思ってなかったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Say You Love Me 巴瀬 比紗乃 @hasehisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ