第57話
《直己》
部活の帰り、手を掴んだら、和泉も手を掴み返してくれた。手を繋ぐことに、まだ、緊張する。
「直ちゃんって、直己、なんだっけ?」
和泉の言葉に、さらに心臓が跳ねた。
いつも繋げるわけじゃない手のひらから、それが伝わってしまったらどうしようと思う。
平静を装いたくて、ばれないように深呼吸した。
「そうだけど、どうして?」
思ったように、言えたと思う。声も、震えなかった。
「私、彼氏のこと、いつもあだ名で呼んでたから。直ちゃんも、そうだなって思って」
和泉を見やる。その顔は、少し赤らんでいるように見えた。
暗がりでは、良く見えないけど、そんな気がした。
「なんて、呼んだら良いかな?」
和泉は前を見て、誰にともなく微笑んでいた。その頬が、少し赤い。
まるで、俺と同じ。平静を装っているように、感じた。それが妙に嬉しかった。
「“ちゃん”は、いらないよ」
“直己”は、さすがに心臓が持たない気がする。
「直?」
心臓が跳ねて、言葉を失う。
直ちゃんは、小さい頃から呼ばれていた、あだ名だ。要も昔、そう呼んでいた。だから、和泉もそう呼ぶようになったんだと思う。そこに、不満はなかったんだ。
様子を伺うように、和泉が顔をあげる。
「うん。それが良い」
最近、和泉が歩み寄ってきてくれてるんだって、実感する。
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