第56話


《要》


 俺は、受け身だと思う。自分で考えて動くなんて、滅多にない。

 母さんには母さんの都合があって、父さんには父さんの都合があって。母さんも父さんも、自分達の都合のなかで、精一杯、俺のことを考えてくれているから、その中で生活することに、不満なんてなかった。

 学校も、部活も。食事も、行事も。いつもどれも、楽しかった。

 俺はいつも、誰かに楽しませてもらってるんだと思う。

 バスケだってそう。司令塔である直ちゃんのパスを、決める。それが俺の仕事で、ゲームメイクは多分、俺にはできない。

 だってゲームメイクは、受け身だけじゃ成せない技だと、思うから。




 まさか、こんなところで遭遇するとは思わなかった。

 いや、可能性はあったんだろう。

 部活終わり、カノジョを送る帰り道に、直己と和泉がいた。

 数メートル先で二人は、仲睦まじく、手を繋いでいた。


「手、繋ぎますか? 先輩」


 感化されたか、恥ずかしそうにカノジョが言う。


「いや、良いや」


 物理的に考えて無理だ。俺は、自転車を押しているんだから。

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