第54話
《直己》
朝練前の部室に、要の眠そうな「おはよう」が響いた。背中に、挨拶を交わす。
「おま、それ、なに」
久しぶりに聞いた、俊二のひき気味の声音に、振り返る。
入り口には、見たことのないマフラーとカーディガンを身につけた、要がいた。要はなんの反応もせずに、自身のロッカーに鞄を置いた。
「ああ、カノジョからの誕生日プレゼント」
俊二と宮は要のロッカーを覗きこむと、声をあげて要のロッカーを漁った。そして、なにかを引っ張りだす。
「これも、これも、これにも!」
「全部イニシャルつき。ってことは」
タオルに練習用シャツに、シューズバッグに。それらを掲げて、二人は要に詰め寄った。
「そうだよ」
眠たげな目で肯定して、要は俊二から練習用シャツを奪い返した。
「くそ! ラブラブかよ!」
「男の夢が!!」
「うるさいなー」
腹立たしげに投げられたタオルとシューズを受けとめながら、要は今にも眠気に負けそうだった。用意を終わらせて出ていくまで、二人は羨ましさに苛立ちを募らせたままだった。要はなに一つ気にしてなかったようだけど。
「要」
「何?」
二人っきりになった部室で、綺麗に包装されたプレゼントを差しだした。
「これ、俺と和泉から」
眠気のせいか、要の反応が鈍い。いつもなら、とうに目が覚めている時間なのに。
「誕生日プレゼント。被って悪いけど」
要はじっとプレゼントを見つめているだけで、なかなか受けとってくれない。俺もこれ以上、どうして良いか分からず、立ち尽くす。
「いや、ありがとう」
よほど眠いらしい。プレゼントは乱暴に奪われた。
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