第53話


《要》


 誕生日はいつも、誰かと一緒だった。

 両親がいれば両親と、いなければ和泉の家で。カノジョが望めば、カノジョと過ごした。

 ケーキはそれぞれ好みのケーキを買う。マジパンと数字のろうそくで飾られたお皿は、一人だけ豪華だった。

 プレゼントは貰いすぎなくらい、色んな人から貰った。その分お返しが必要だったけど、それもまた楽しかったんだ。

 そして貰う時は、中身を知らずに開けたい。だから「何が良い?」とかは聞かれたくない。だからいつも、「なんでも嬉しいよ。でも、無理はしないでね」なんて返す。しつこく聞かれたときには、候補をいくつかあげたりするけど。

 本当になんだって良いんだ、貰えない方が寂しいから。




 誕生日当日、両親のいない我が家に、はじめてカノジョが来た。見るからに手一杯の荷物をもって、待ち合わせ場所に立っていたカノジョに、若干の苦手意識をもったのは、ここだけの話。


「手作り?」

「はい!」


 部屋のローテーブルに広げられたケーキを見て、頬がひきつりそうになった。カノジョの満面の笑顔に、ぐっと堪えたけど。


「ワンホール、だね」

「はい!」


 膝たちをしてケーキを切り始めるカノジョは実に嬉しそうで、邪魔をしてはいけない気がした。切り分けるカノジョを見ながら、黙って待つ。


「チョコレートは苦手だと伺ったので、王道の生クリームとイチゴにしてみました!」


 カノジョと付き合っていると、誰に聞いたんだろと思うことが増えた。誰になんて、尋ねたりはしない。けど、切り分けたにも関わらず、半分以上残っているケーキには、ツッコまざるを得ない。


「二人だけだよ?」

「はい! 何度も楽しんでいただけたらと思ったので!」


 どうやらカノジョは、この残りのケーキを置いて帰るつもりのようだ。誰かと分けようと、内心思った。


「あの」

「なに?」


 ケーキを食べようとして、止められた。


「口、開けて、ください」


 恥ずかしそうに、だけど積極的に差し出されたフォークには、一口大のケーキが乗っていた。赤面するカノジョに、笑みが漏れる。


「いいよ。はい」

「あーん」


 カノジョの作ったケーキは、甘すぎず。イチゴ以外のフルーツも使っていて、飽きないようにと作られているんだと感じた。

 食べる僕を嬉しそうに見ているカノジョに、「おいしいよ」と笑顔をむける。


「そうだ! 誕生日プレゼント、まだ渡してなかったですね!」


 カノジョが、大きな紙袋を漁り始める。

 ふと、窓の外を見る。

 カーテン越しに、和泉の影を見つけた。


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