第52話
《和泉》
贈り物は、いつも、相手の顔を思い浮かべて探す。
むつみには何が似合うだろう。私はピンクを合わせたいけど、本人がいやがるから除外。白はイメージじゃないし、かといって黒でもない。原色も違う。どちらかと言えば、パステルカラー。やっぱり、本人の好みからかけはなれているけど。
だけど時に、ふいに浮かぶ。
勝手に。
贈りたい、相手の顔が。
赤いキャップがそうだった。
その店の前を今、通りすぎる。
一人で商店街を歩くなんて、いつぶりだろうか。なんの目的もなく、気晴らしに、歩くなんて。
お洒落なカフェ、手芸品のお店、婦人服店、漬け物屋。
寂れてはいないが、賑わうほどでもない商店街は、主婦やおじいちゃんやおばあちゃん、たまにリュックを背負った青年が行き交う。
視界は広く、遠くまで見渡せる。息が詰まるほどの人混みはない。変わらない風景のはずなのに、まるではじめて歩くみたいだ。
直ちゃんと歩いたとき、どこを見ていいのか分からなかったから。話を聞きながら直ちゃんを見上げて、返事を考えて、笑って、話して。
無理をしてたんだと思う。
だからショーウィンドウに目を向けて、感嘆したりして、休憩してた。
まるで北欧のカフェのような店構えに、立ち止まる。
私好みの雑貨店があるなんて、あのときは気づかなかった。
今度、一緒に来てみよう。
クレープを食べて、ミルクティーを買って、あのキャップの店にも入ってみようか。
商店街を歩くカップルを見ながら、胸がキュッとなって、微笑みが零れた。
今日は要の誕生日。
今ごろきっと、直ちゃんが渡してる。
汚れが目立たない黒色の、肌触りの良い、二人からの誕生日プレゼントを。
私のいない、ところで。
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