第51話


《直己》


 時間が許す限り遠くのバス停まで、歩いて帰る時間。

 そんな和泉との帰り道に、緊張も違和感も感じなくなってきた。


「そろそろ、要の誕生日だね」

「そ、だね」


 間が持たなかった時期はとうに過ぎて、家族のこと、勉強のこと、友達のことを少しずつ話していった。


「何あげるか決まった?」

「ううん、まだ、だよ」


 思ったよりもすぐに返ってきた言葉に、驚きとともに、一瞬、息が止まった。脳裏に、キャップ帽が浮かぶ。


「なら、一緒に買わない?」


 あの赤が、主張してくる。ここに、ないのに。

 和泉は少しだけ俯いて、何を考えているのか、教えてくれない。


「もちろん、和泉がよければ、だけど」


 俺は和泉の顔を覗きこもうとした。だけど、長くて艶のある髪が、邪魔をする。


「良いよ」


 落ちるように、零れた言葉。それを拭うかのように、和泉は笑顔を作ろって顔をあげた。


「個人的にあげたら、カノジョに悪いしね」


 俺を見る目に、わずかに涙が浮かんでいる。


「本当に、良いの?」


 要に誕生日プレゼントをあげて欲しくない。これは本心。でも、和泉に我慢をさせたくないとも思う。


「直ちゃんが、言ったんでしょ」

「え?」

「言ったじゃん。一緒に買おうって、今」


 和泉が、笑った。意地らしく、笑った。


「うん」


 唾を飲みこむ音を誤魔化すように、頷いた。


「なんにする?」

「日用的なもので良いんじゃないかな」

「タオルとか?」


 和泉の提案に、胸がはやる。我慢を、させてしまっているかもしれない。そんな不安が、端へ端へと追いやられる。


「直ちゃんは、なんなら嬉しい?」


 嬉しい気持ちが、溢れてしまいそうだ。

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