第48話
《直己》
少し離れたところで、要とカノジョがお弁当を食べている。それを俺たち三人は眺めながら、昼食に入った。
「練習試合ってさ、こんなに華やかだったんだな」
「ほんとだな、俺らはショボい弁当だけど」
膝の上に広げた弁当を、俊二と宮は悲しげに見つめている。
「なんであんなに輝いて見えるかな、カノジョの手作り弁当って」
今度は要の膝元を注視して、恨めしそうに目を細めた。
「俺、初めて見た」
「俺も」
そんな二人の視線が、風を切ってこちらを向く。
「直己は?」
「何が?」
「カノジョの手作り弁当」
俺は母親の作った弁当を膝元におき、唐揚げを口に運ぶ。
「ないよ」
「なんで?」
「和泉ちゃんって、もしかして料理苦手なのか!?」
「知らないよ」
箸を進める俺とは違い、二人の手は止まったままだ。
「作ってもらえよ、弁当」
「てか、応援は? 前、呼んでたじゃん」
俊二は箸で俺を指し、宮は箸を握りしめて駄々をこねる子供のように手を振った。
「弁当は母さんが作ってくれるから。応援は、言ってない。今回は」
俺は梅干しをほぐして、ご飯と一緒に口に運んだ。
「なんでだよ!」
「誘えよ!」
大声に、お弁当が吹き飛ぶかと思った。二人を見やると、なぜか二人は肩を跳ねあげ、姿勢を正した。長続きしなかったけど。
「いいんだよ? お兄さんにみせびらかしても」
「いいんだよ? 俺らの応援をお願いしても」
俺は無視を決めこんで、ほうれん草の和え物を口にする。野菜炒め、ご飯と食べて、だし巻き玉子に箸を進める。
「今から連絡しろ!」
「来てって言え!」
沈黙は長くは続かず、しびれを切らせた二人がまた、叫んだ。
「来て欲しいだろ!?」
「俺は来て欲しい! だからお願い! 今すぐ呼び出して!」
一瞬、だし巻き玉子の味を見失う。
誰よりも、来て欲しいと思ってるよ。
俺は睨みつける二人の視線に負けたフリをして、スマホを取り出した。
「良いけど。来るかどうかは、和泉の判断だからな」
「もちろん!」
嬉しそうにお弁当をつつき始めた宮とは違い、俊二はまだ俺を見ていた。睨みつけているというより、ただこちらを見ている。
「お前、優しいなあ」
「お前に言われても嬉しくないから」
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