第40話


《和泉》


 お雛様とお内裏様で仮装して写真を撮った、幼稚園の思い出。

 かけっこでお互い一番にをとって両家でケーキを買ってお祝いをした、小学校の思い出。

 お互いの読書感想文を添削したり、答え合わせをして一緒に精を出して勉強に励んだ、中学校の思い出。

 その全部に、要を好きな私がいたことは、変えようのない事実で。

 そのいつだって要は、彼氏なんかじゃなかったんだ。

 ただの幼なじみでもなかったんだ。     




「この前は、ごめんなさい」


 涙が滲む。

 謝るからじゃない。純粋に、申し訳なかったと思っているわけでもない。だけど、涙が滲む。

 私は必死に笑顔を作った。


「私、どうにかしてたんだ」


 次に言おうとした言葉に、息が詰まった。


「要は、ただの幼馴染みだから」


 発せられた言葉に、涙はついてでた。

 直ちゃんの姿が、涙ににじむ。


「良いの?」


 頬に、直ちゃんの指が触れる。氷みたいに冷たい。触れられた涙が、一緒に凍ってしまうんじゃないかと思うくらい、冷たかった。


「うん」


 手はあんなに冷たかったのに。

 私を包み込んでくれた直ちゃんは、優しい温もりに溢れていた。


 私にとって要は彼氏なんかじゃない。ただの、幼なじみだったんだ。

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