第37話


《和泉》


 女友達は、早々できない。

 唯一の友だちは昔、その理由を「要の幼馴染みに生まれたせいだ」と言ったけれど、私はそんなこと思っていなかった。

 小さい頃から知ってて、当たり前のように仲が良かったことが、なによりも嬉しかったから。

 そんな風に、思うわけがなかった。

 なのに今、それを取り上げられてしまうなんて。




 テストの復習のために家に来たむつみは、お菓子を貪っていた。


「そもそも、要のことが好きなら、要に告白したりアピールしたりすべきじゃん」


 いつもと変わらない口調で、むつみは落ち込む私に追い討ちをかける。


「結局あんたはさ、自分のことが大事なんじゃん」


 言い返せない私に、むつみは言葉を続ける。


「重要なのはさ、“誰を傷つけたくないか”だったり、“誰を大切にしたいか”じゃないの?」


 泣きそうになる自分に気づきながら、堪えきれない私に気づきながら、私はただ顔を隠すことしかできない。


「好きって言うのはさ、自分より相手のことを思う気持ちなんじゃないの?」


 分かりきっていることを、彼女は当然のように言う。その当然が、難しいことなのに。


「もし、それでも要のことを好きなままでいるなら、直ちゃんとは別れるべきだよ」


 クッションを抱く手に、力がこもる。


「そんで、要のことも諦めな」


 クッションが、薄紅色から赤色に変わる。


「要に好きだって言わせる自信、ないんでしょ?」


 言わせる自信なんてあっても、もう役にはたたない。

 要には、カノジョがいるんだから。要が、そう言ったから。

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