第35話
《要》
幼馴染みは、俺にとって家族みたいな存在だと思う。
当たり前で、当然そばにある存在で、欠けることも離れることもない。俺たちの間に“頼る”“頼られる”なんて、言葉すら存在しないと思う。
迷惑もわがままも、他の人が邪険にすることも、俺たちの間では気にとめるようなことなんかじゃないって、思ってる。
だから和泉の好きだって言葉は、なんだか本末転倒な気がしたんだ。
だから、あの言葉は、気の迷いだと思うんだ。
カノジョの目が届かない部室で、俺はいつも通り、直己の横に鞄をおいた。制服を脱いで、思い出す。
「そういえば、直己」
「なに?」
直己は練習用のTシャツを、鞄から取りだしていた。
「和泉とうまくいってる?」
直己の手が止まる。目を見開いて、そして奥歯を噛み締めたようだった。
「なんで?」
「和泉に言われたから。好きだって」
俺は練習用のTシャツを、腕に通す。
直己はTシャツを持ったまま、動かない。
「だから、うまくいってないのかなって思って。ほら、最近会ってないみたいだし」
Tシャツに頭を潜らせて、整える。
俊二と宮が、遅れて来た。挨拶を交わす。直己は、黙ったままだ。
着替え終わって、先に行こうとジャージを手にする。
先に行くよと伝えるために、直己を見ると、直己は練習着を握って俯いていた。
「お前に、言われるようなことじゃない」
呟くほど小さな声に、俺は首を傾げた。
「そっか、ごめん」
俺はなぜか、謝ってしまった。
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