第34話


《和泉》


 要と付き合って別れた子たちが、言っていた。

 私は要くんのこと好きだけど、要くんは私のことなんて特別好きじゃないんだって思ったの。

 と。

 要は、いつだってそう。

 誰に対しても優しく、誰に対しても敬意を払い、誰に対しても愛情を抱く。

 要にとってはみんな同じ。変わらない。私もカノジョも元カノジョも。

 きっとなにも変わらない。

 だけど、カノジョたちも、私も、要の特別になりたい。

 なのに、要の頭の中には、そもそも、特別なんていう言葉が存在しない。

 だから、特別へのなり方が、分からない。

 分からないから、ずっとずっと、言わずにいた。




 夕食を終えて帰ろうとする要のあとを、追った。玄関先で呼び止めると、要は寒いと言わんばかりに背中を丸めて、立ち止まる。

 気持ちが逸る。なのに、言葉が喉で突っかかってる。小さく咳払いして、そのつっかえをとった。

 心臓が体を突き破ってしまいそうなのに、頭はなぜか氷みたいに冷静だ。


「私、要のことが好きなの」


 あふれでた言葉に、要は目を見開いて驚いた。一瞬だけ、だけど。


「好きって、そういう意味で?」


 私は、静かに頷いた。


「和泉、直己と付き合ってるよね。俺も、カノジョいるんだけど」


 要の最もな言い分に、私の中の逸りが足から地面へこぼれていった。冷たさだけが残って、涙がこぼれてしまいそうだった。

 言葉なんかで、人の心は動かないと、私は知ってる。

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