第33話


《直己》


 放課後の部活は、朝そして今も、応援にきた要のカノジョの話で持ちきりだった。休憩に入る度、カノジョは下に降りてくる。毎度、新しいタオルを持って。


「いやー、あいつらラブラブだねー」

「いや、あれは圧されてんだろ、要」


 カノジョと話す要を横目に、俊二と宮は言う。どうやら、羨ましさはお昼の時に消えてしまったらしい。昼食が終わるのを待たれていた要に、若干ひいていた。

 そんな二人の目が、こちらをむく。


「お前はどうなんだよ、和泉ちゃん」

「まさか、こんなところに伏兵がいたとはな」


 じとっとした視線に、俺は何度目とも知れず返した「普通だよ」を口にする。


「もうデートした?」

「や、お前がデートしてんの、想像できねーけど」


 徐々にテンションをあげていくニ人に、俺はいつも通り、返事をする隙を見失う。


「てかお前ら、あんま一緒にいないよな」

「たしかに。なに? 隠してんの?」

「いや、だったらなんで俺ら知ってんだって話だろ」

「そっか。要には言ったんだもんな」


 言いたいことだけ言って、ニ人はこっちを見て返事を要求する。俺たちのいつもの歓談風景だ。


「良いんだよ。俺らは俺らのペースで」


 俺の返事に、ニ人はなんとも言えない顔をした。


「うっわ、なんか腹立つ」

「スゲー見下された気分だわ」

「そんなつもりじゃない」

「いや、わかってるよ」

「分かってるけど、カノジョいるからムカつくんだわ」

「そうなんだ」

「あ、今のはマジで腹立った」


 キャプテンが、練習の再開を告げる。俺たちは走って、コーチの元に集う。要は、一歩遅れてやってきた。

 要に対する劣等感が、じわじわと俺を追い詰める。


「どうかした?」


 深呼吸をすると、要に気づかれた。


「なんでもない」


 早く和泉と仲直りをしなければ。

 焦る気持ちは、パスミスを誘発した。

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