第27話


《直己》



 ボールを持つより先に、コートを見渡す。味方の動きはもちろん、敵の動きを追って、コートの状況を把握する。ボールを持ったら、得点の可能性がより高い方へパスを繋ぐ。パスが通れば、今度は自分が、可能性の一部になるために、動く。要も俊二も、いつも通り順調だ。

 靴が床を打ち鳴らし、ネットが軽い音で揺れた。

 得点板に、要の三点が加算される。


「さっすがエース!」


 俊二と要がハイタッチしながら、こちらに向かって走ってくる。


「ナイス、直ちゃん」

「ああ」


 俺に向かって掲げられた要の手に、応える。掌が触れた瞬間、心臓が一瞬、重みを増した。要はたまに、昔の呼び方で俺を呼ぶ。今はそれが胸を締め上げる。

 汗を拭いて、気をまぎらわせようと試みる。

 ふいに高い声が聞こえて、二階に目を向けた。要のカノジョが、友達二人と一緒に歓声を上げていた。この前と同じ場所、カノジョたちから少し離れた場所に、和泉の姿を見つける。

 試合再開の笛が鳴る。

 和泉と、視線が合うことはなかった。

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