第28話


《和泉》


  要がバスケをはじめて、私も一緒にバスケのルールを覚えた。

 好きな人のことを、もっと知りたくて。

 好きな人と、好きなものを共有したくて。

 一緒に試合を見て、一緒に楽しみたくて。

 誰だって、そう。

 好きな人との距離を縮めるために、歩み寄るために

 もっともっと、相手に好きを伝えるために。

 バスケを覚えた。

 ルールを知った。




「この前の練習試合、どうだった?」


 直ちゃんに聞かれて、戸惑う。

 正直、この前の練習試合の感想は、特にない。


「私、バスケに詳しくないから」


 記憶に残っているのが、直ちゃんの姿じゃなくて、なにも伝えることができない。

 試合の結果すら、覚えてない。


「昔はよく、試合の話、してたのに?」


 思い出のなかに直ちゃんの姿がなくて、私は言葉を失う。


「要のこと、好きなんでしょ」


 息を呑む。

 直ちゃんと目があった。

 その目は少し潤んでいて、唇が震えていた。


「知ってるよ」


 なのにその言葉は。

 確かに、はっきりと、私の鼓膜を震わせた。

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