第24話


《直己》


「あ」

「何?」


 隣の席で声をあげる要に、少し驚いた。見やれば、机の中をまさぐっていた。

 またか、と思う。


「教科書? 資料の方?」

「教科書」


 要は、実は忘れっぽい。部活に関してならそんなこともないのだが、教科書は良く忘れる。置き弁を勧めたこともあるけど、要は必要ないと言って実行しなかった。和泉に借りれば良いと、思っているからだ。


「やっぱないわ」

「はい」


 俺は要に、教科書を差し出す。


「や、お前も同じ授業じゃん」

「分かってるよ」


 当たり前のことを口にする要に、乱暴にならないように返事をする。立ち上がると、俺の気持ちを表すかのように椅子が耳障りな音をあげた。


「和泉に借りるから良いよ」


 教室を出ていこうとすると、要が立ち上がった。

 当然の申し出だ。分かっているし、ここまでするなんて、俺も行きすぎかと思う。だけど、嫌なんだ。

 だって要のカノジョは、和泉と同じクラスだろう?


「良いよ。俺が借りに行くから」


 でもと、申し訳なさそうな要の声が聞こえる。


「落書き、していいから」


 一押しをして、俺は要に背を向ける。


「分かった」

「気にしなくて良い」


 要への返事もおざなりに、俺は隣のクラスへ急いだ。

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