第22話


《和泉》


 この学校特有の、デートコースがある。

 近くの商店街、カラオケ、ボーリング、ちょっと離れたモールに、隣町の商店街。

 学校帰りはここ、休日ならここ、ちょっとしたお出掛けするならあっち。

 高校生になったら制服での放課後デートは女子の憧れだし、好きな人と行きたいと胸踊らせてカレシ探しに奔走する人だっている。

 女子の憧れ。私にだって、あるのに。あったはずなのに。

 何度カレシと訪れても、嬉しくなくて、気分が乗らない。

 足を運べば、それだけ、虚しくなった。

 哀しくなった。




「ごめん、待たせて」

「大丈夫だよ」


 バス停で待ち合わせして、ぎこちない笑顔で笑い合う。


「隣町の商店街に行こうと思うんだけど」


 花壇から腰をあげて、直ちゃんはさらに距離を縮めてきた。


「そんなに遠くなくて滅多に行かない場所なら、この時期の気晴らしに丁度良いと思ったんだけど」

「うん、良いよ」


 何度も行った景色を思い浮かべながら、頷く。


「どこかカフェ、探そうか。なにか食べたいものある?」

「どうだろ」


 バスに乗っていろいろ話ながら、時間を満たす。私は直ちゃんの言葉に相づちを打つことしかできないでいたけど、彼は優しく微笑んで、言葉をつくしてくれた。


「いろいろ見ながら、決めようか」

「そうだね」


 商店街について、歩き始める。


「和泉って、食べ物は何が好きなの?」

「パスタ、かな。良く食べに行くのは」


 喫茶店のメニューをみながら、話す。


「バジルとか?」

「男子はミートソースとか好きだよね」


 結局決め手に欠けると言って、次の店を探す。誰とも行ったところがないような、新しい店が良い。


「あ」


 お店のショーウィンドウ。

 要に似合いそうなキャップを見つけて、思わず声をあげてしまった。


「入る?」

「でも」


 直ちゃんが私の顔を伺い見ながら、聞いてくる。どうみても、ここはメンズファッションのお店だ。


「良いよ、入ろ。気晴らし、なんだし」


 直ちゃんが何を思って、そう言ってくれているのか。分からないけど。


「うん」


 私は兄がいると口にする機会を探した。

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