第21話


《直己》


 テスト期間中。

 朝練がないからと、和泉を迎えにきた。


「ごめん、お待たせ」


 前髪を整えながら出てくる和泉に、思わず頬が綻んだ。


「ううん、勝手に来たから」


 家から出るなり、和泉が視線を泳がせる。急いで出てきたのは、そういうことか。


「要なら、先に行ったよ」


 視線に答えると、和泉は一瞬息をつまらせて、苦笑した。


「行こうか」


 声をかけると「うん」と言って、和泉は僕のとなりに並んだ。和泉と、足並みを揃えて歩く。


「テスト、直ちゃんは問題なさそう?」

「そうだね、まあ、人並みだけど」


 このままだと、テスト勉強が手につかなくなるから。なんて、本当は言いたかった。だけど和泉に言ったところで、苦笑されて終わるだけだ。

 思っただけで息が詰まりそうなんだ。

 口に出してまで、確認したくない。


「テスト期間中だけどさ」


 バス停で待ちながら、和泉を盗み見る。


「和泉がよければ」


 呼び掛けに僕を見上げる和泉の姿に、一瞬言葉を失った。体が自然と火照るのを感じながら、言おうと思っていた言葉を探した。


「気晴らしに、どこか行かない?」


 反らされた視線に、今度は体が固まっていくのが分かった。これは遊びに誘うのとなにも変わらない。自分にそう言い聞かせて、意を決する。


「帰りに、寄り道。テストの日にはなると思うけど」


 友達として。そう思い込むことで、和泉への負担が少しでも減るのなら。少しでも一緒にいてくれる時間が増えるなら。

 僕は特別な気持ちを押さえ込んで、今までと変わらない態度を装う。


「うん、大丈夫だよ」

「じゃあ、また、帰りに」


 戻ってきた和泉の笑顔に、ほっと胸を撫で下ろした。

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