第19話


《和泉》


 いつも要のカノジョは、私を見せないようにする。

 例えば、自分の体を盾にしたり。

 例えば、要の部屋のカーテンを閉めたり。

 睨まれたり、囁かれたりとは別に、遮断する。

 私は反論もできないし、張り合うこともできないから

 いつも俯いてやり過ごすだけだった。

 そんなときの味方は、いつも、むつみだけだった。

 だけど今、学校では一人ぼっち。

 ただ早足で通り過ぎて、やり過ごすことしかできない。

 そうやっていつも私は、要への思いを守ってきた。




 テスト前。


「和泉先輩」


 移動中、見ず知らずの女子生徒に呼び止められた。二つ結びのその子は、走ってきたせいで息切れしていた。


「直己先輩と、付き合ってるんですか!?」


 彼女の声は廊下に響いて、すれ違う生徒の視線を集めた。思わず、視線をさ迷わせる。


「そう、だね」


 スムーズに答えられなかった。なぜか彼女の顔が喜びに満ちた。


「わかりました! ありがとうございます!」


 勢い良く頭を下げると、彼女は走ってどこかに消えていった。見えなくなった背中に、意味も分からず心がざわついた。

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