第16話


《和泉》


 直ちゃんは、要の友達で。

 たまに会ってた。たまに話してた。

 そのどんなときも、要がいた。

 だから正直、直ちゃんのことは顔見知り程度にしか思ってなかった。

 良いヤツだって、要が口にすることは多かった、そんな印象。

 だから、告白されたとき。

 俺でも良いのかって言われたとき。

 ただただ、驚いた。

 いつもと違って、すぐに返事ができなかったのは、

 直ちゃんの後ろに、要の姿が見えたから。

 それでも頷いたのは、

 直ちゃんを見るたび、要の姿を見ることができるから。




「え? マジで」


 直ちゃんと付き合うことになったと報告すると、むつみは目を見開いて驚いた。


「うわー、直ちゃんやったね」

「どういう意味?」

「なんでもない」


 むつみは目を反らして、オレンジジュースを啜り飲んだ。


「でも、良いの? 直ちゃんって、要くんの中学からの友達だよね?」

「そう、一緒にバスケしてる仲」

「ああ、部活頑張ってたね、そういえば」


 むつみはグラスを置いて、こっちを見た。


「まだ行ってるの? 応援」


 今度は私が目をそらす番だった。オレンジジュースに逃げて、視線を落とす。


「行った、よ。この前は。タオル届けた、ついでに」

「なんだ、少しは大人になったんだね」


 なにも返せずにいると、むつみはクッションを抱え込んで目をすがめた。


「前は練習試合も行ってたじゃん。なんでやめたの?」

「なんとなく」

「嘘。なにか理由あるんでしょ?」


 私はただ、黙り混むしかできない。

 最後に応援に行ったのはいつだっただろう。


 カノジョでもないのに、応援に来るなんて、何様?


 嫌みは今でも、耳で木霊する。

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