第12話


《直己》


「珍しいじゃない。あんたがこんな怪我するなんて。しかも、たかが練習試合でしょ?」

「大した怪我じゃない」


 リビングでテーピングをしていると、姉が嬉しそうに近づいてきた。


「何に気をとられてたの? 好きな子でもいた?」


 姉は強引にテープを奪い取ると、足を出せと叩く。


「あんたがそんなことに気をとられるわけないか」


 昔バスケ部のマネージャーをしていただけあって、手際が良い。


「なに? 好きな子いたの?」


 反応せずにいると、姉貴は手元に注力したまま、聞いてくる。ただの世間話だと答えずにいると、姉が顔をあげた。


「なにかあったの?」


 姉はテーピングを終わらせると、横に座ってテレビをつけた。質問の答えを急かすでもなく、ここから立ち去るでもなく、リビングでくつろぎ始める。


「女子はさ、どうしてあんな女子に厳しいの?」

「好きな男絡んでる場合? 絡んでない場合?」


 ぱっと、要の顔が浮かぶ。


「絡んでる」

「じゃあ、危機感ね。きっと」

「絡んでなかったら?」

「女子は元々、誰かに嫉妬しなきゃ生きていけない生き物なのよ」


 少し考える。


「それ、男が絡んでるとか関係ないよね」

「ないわよ。でもね、男が絡んでると嫉妬どころの話じゃなくなるのよ」


 理解に苦しんでいると、姉はふふと笑った。


「怖いわよ、女は。男の比じゃないんだから。そのうち男のことなんてどうでもよくなって、ただの足の引っ張りあいになるのよ」

「経験済み?」

「そうね、醜かったわ」


 姉は「お菓子を忘れた」と言って立ち上がる。


「勝ったけどね」


 去り際に呟いて、姉は台所へ向かった。

 胸を張るでもなく、静かに紡がれた言葉は、どこか虚しさが混ざっているように聞こえた。

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