第11話


《要》


 直己とは小学校からの付き合いだった。

 バスケのクラブに入ったその日に、出会った。

 最初はクラブだけでの付き合いだった。

 中学に上がって、試験勉強をする仲になった。

 俊二が、頭の良い直己を誘った。そこではじめて、俺と直己と俊二と宮と源太の五人が揃った。

 それからクラスメイトになったり、たまに家に遊びに行ったり、来たりする仲になった。

 勉強を教えるのがうまくて、パスが正確で、すごく頼りになるヤツ。

 無口で、何を考えてるかわからないけど、

 すごく良いヤツ。




 午後から仕事の母にかわって、和泉の家で夕飯をごちそうになるのは、よくあることだった。

 練習試合後にシャワーを浴びて、急いで行くと、食卓にはすでにごちそうが並んでいた。


「いただきます」


 進められた席に座って、和泉の隣で筑前煮をつつく。


「要くん。練習試合、どうだった?」

「辛勝でした。途中、直己が足挫いちゃって」

「大丈夫なの?」

「大したことはなかったんで、大丈夫です。念をとって今日は途中交代しましたけど」


 和泉のお母さんを前に楽しくしゃべって、美味しい美味しい白ご飯を頬張る。


「直己くんって、ポジションどこなの?」

「ポイントガードです。サッカーで言うと、ミッドフィルダー的な」


 バスケでのポジションを言ってもピンと来ないようで、にこっと笑われた。だから和泉のお兄さんがやっているサッカーで例えてみる。


「重要なポジションじゃない」


 どうやら、通じたようで良かった。


「そうなんですよ。頼りにしてるんで、いないと心細いんですよね」


 良く知らないバスケのことを話しても、おばさんは嫌な顔ひとつしないで聞いてくれる。和泉は横でもくもくと食事を続けるだけなのに。


「要くん、カノジョできたんでしょ?」

「あ、和泉に聞きました?」

「今日、カノジョは良かったの?」


 筑前煮を頬張りすぎて答えられずにいると、おばさんは苦笑した。


「お母さんが言ったからって、彼女を放ってまで、言いつけを守る必要はないのよ? もう高校生なんだから、1つや2つ、破っても良いんじゃない?」


 俺はなんとか筑前煮を飲み込む。


「良いんですよ。僕はおばさんの料理好きだし、和泉んち、落ち着くから」

「あら、嬉しいわ」


 おばさんの笑顔で、いつもより何倍も食べられた。

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