第9話


《直己》


 部活の練習の途中、教室に忘れ物をとりに来たときだった。

 他クラスの教室から和泉の名前が聞こえて、思わず聞き耳をたてた。


「じゃあ、お前告れば?」

「俺、自信ねぇよ」

「てかお前ら、別れたばっかだろ」

「嫌じゃね? てか、オーケーしてくれねぇんじゃねぇの? 別れたばっかならさ」


 聞こえた言葉を不思議に思い、そっと教室を覗き見た。

 彼らは一つの机を囲って、笑いながら冗談とも本気ともとれない会話をしていた。

 四人の中に、和泉の元カレを見つける。

 元カレは苦い顔をして、窓枠にもたれかかっていた。


「大丈夫だろ。問題ねぇよ。あいつは、男が欲しいだけなんだから」


 俺はその言葉に、思わず割って入って、そいつを殴ってしまいそうだった。

 踏みとどまれば、立ち退くこともできないほど、足が地面に張りついてしまった。


「あいつは幼馴染みさえいれば充分なんだよ。心がマジで子供なんだって。男だとかカレシだとか、ほんと分かってねぇんだよ」

「お前、ふったんだよな?」

「未練タラタラじゃねーか」

「結局、イイ女だったんだろ?」


 彼らの笑い声が、胸くそ悪い。

 吐き気に足元が揺らいで、俺はそこからやっと立ち退くことができた。


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