第4話


《和泉》


 以前、友達に「まるで少女漫画だよね」と、窓の外を見ながら言われたことがある。

 友達は「窓から遊びに来たりしないの?」なんて茶化して笑ったけれど、私は彼女が何を言っているのか、まるで分かっていなかった。

 遊びに来るときは玄関からくるでしょ?

 なんて、真面目に思ってた。

 それに、お互いに窓を開けて会話することもない。スマホを使う方が便利で、安全だ。

 とは言え、家に来れば必ず要は母を見つけ挨拶をする。小さい頃からのクセみたいなものだと思う。

 そう言うと友達は

 それじゃあ、まるで旦那じゃん。

 と笑った。

 私はから笑いを浮かべるしかできなかった。


 私にとって要は旦那なんかじゃない。カレシでもない。だけど、ただの幼なじみとも違う。




 お昼になると、教室ではいくつかのグループが出来上がる。クラスメイトのなかには教室ではなく別の場所で、違うクラスの人とお昼をとる人もいるけれど、大抵はクラスに居残り、クラスメイトとお弁当をつつきながら歓談する。

 クラスの女子グループのひとつは、地べたに座って円を作り、いつも和気あいあいとお弁当を広げていた。

 その中の一人が、ねえ聞いてとみんなに静寂を求めた。

 近くでお昼をとっていた私の耳にも、その声は届いた。


「私、みんなに言わなきゃいけないことがあるの」


 カノジョは嬉しいのか、申し訳ないのか分からない複雑な顔で、円をつくるクラスメイトの顔をちらちらと見渡している。

 その視線が一点に留まり、カノジョはお弁当箱を持つ手に力をこめたようだった。


「要くんと付き合うこなとになった」


 それは、喜びを圧し殺したような声だった。


「ほんと!?」

「凄い! 良かったじゃん!」

「いいなー。羨ましい!」


 溢れる祝福の言葉に、カノジョの目から涙がこぼれた。


「ちょっと、大丈夫!?」


 円を作るクラスメイトが、目を丸くした。


「中学の頃から好きだったもんねー」


 隣に座っていた女子生徒が、物知顔でカノジョの頭を撫でて慰める。

 私の目の前で、友達が何か話している。私は頷いていたけれど、友達がどんな話をしているのかは聞こえてこなかった。

 カノジョは、私の先を行った。

 視界はいつの間にか、机の上に広げたお弁当箱だけになっていた。そこには食べ散らかしたように、おかずが半分、残っていた。静かに、蓋を閉める。

 私にもいつかカノジョのような、嬉しくてでも不安で、それがどうしようもなく幸せで泣いてしまう、そんな時が来るのだろうか。


 私にとって要は幼なじみなんかじゃない。

 私にとって要は好きな人、初恋の人。


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