第13話 願いが叶うとき、その目に映るもの
翌日、王都を見下ろすように聳え立つ城の前に、俺達は来ていた。白亜の壁が周囲を囲む中、唯一の出入り口である城門が来るもの全てを拒んでいるようだ。
そう思うのも無理はない。なにせ王都では今、いつまで経っても出陣しないクズ勇者ヒルベルトの王位剥奪を求めるクーデターが連日のように行われているのだから。
「街の人々は、大丈夫でしょうか?」
城前広場の喧騒を横目に、レイシーが問いかける。
「ああ。一応人払いはするつもりだ。城に入ったら、東西南北の城壁前に仕掛けた遠距離爆破術式を起動。衛兵や人々がボヤ騒ぎに気を取られている隙にヒルベルトのいる玉座を目指す」
「どうしてヒルベルトが玉座にいるとわかるのですか?」
「前に行ったときもそうだったからな。宰相の話によると、奴は大抵玉座でふんぞり返り、メイドや王妃に茶や酒を注がせて城下を眺める……そんな生活をしているそうだ。まぁ、権力成金の考えることなんて俺にはわからないが、下々の民が自分を崇める姿を見て悦にでも浸っているんじゃないか?」
「うわぁ……」
「気に食わないだろ?」
「気に食わないです……」
げんなりと勇者の実態にため息を吐くレイシー。
俺は、懐から包みを取り出しレイシーに握らせた。
「レイシー、これを」
「なんですか?」
師からのプレゼントにそわそわとしつつ包みを開けると――
「……ネックレス? 真ん中に水晶みたいな石が……綺麗……」
「俺の魔力をコツコツ貯めて作った守りのネックレスだ。それを握って魔力を込めている間は、超強力な防御魔法が展開する。絶対に手放すな。俺が勇者と戦闘中は、ずっと握って絶えず防壁を展開していろ。とばっちりを受けずに済む。それと、その紙だが――」
「これ……買取証明書……私の……?」
「そうだ。それも、絶対に手放すな」
短く告げると、レイシーは全てを理解した。
師が、ここで全てを終わらせるつもりなのだと。
「行くぞ」
「……はい」
城の正門に着き、『広場へ行かないといけないような気がする幻術』で一時的に人払いをした俺達は、眼前に門を見据える。
「レイシー、頼む」
こくりと頷いた弟子は、首を傾げた。
「あの……でも、王家の結界を解くって、どうやって?」
「普通に城内に入れ」
「え? こうですか?」
ぴょん、と一歩。門の内側に足を踏み入れるレイシー。
「ちなみに、俺がやろうとするとこうなる」
そっと手を伸ばし、先程レイシーが通過した空間に触れると、激しい火花が散った。
「熱っつ!」
「だ、大丈夫ですかお師匠様!?」
「ああ、この程度なら問題ない。【
回復魔法で火傷した指を治す。
「だが、全身でこれをやるとひとたまりもない。一回やったが酷かった。喉が焼けると魔法を詠唱できないし、無詠唱でやろうと思っても痛みでそれどころではない。ああ、あのときは本当に死にかけた……ふふっ。もう死んでいるがな?」
「やめてください、そんなハードな自虐ネタ。笑えないです……で? どうするんですか?」
首を傾げるレイシーに、ただ一言だけ頼む。
「俺を、招いてくれ」
「招く……? こうですか?」
ちょいちょい、と手で『おいで』をするレイシー。
結界が揺らぎ、僅かに綻びが見えた。もう一押しだ。
「言葉に出して」
「ええと……『おいでください、お師匠様』……?」
――パキン。
結界が、解けた。
「そうだ、そうだ! これだ!」
いざ大股で一歩踏み出し、俺は王城に足を踏み入れた。
「おぉ! 入れるぞ!! すごい、すごい!」
「なんですか、その子どもみたいなはしゃぎよう……知っててやったんじゃないんですか?」
「それはそうだが、実際にできてみると感動するものなんだよ! 何せ俺は、七年近くこの門に悩まされてきたんだから! まったく、魔王の特性も鬱陶しいものだ!」
「お師匠様……本当に、邪なるモノなんですね……」
「知ってて傍にいたんじゃないのか?」
問いかけると、レイシーは顔をかぁっと赤くして声を荒げた。
「そ、そうですけど! 悪いですかっ!?!?」
「なんでキレるんだよ……」
「だって……」
そっと手を握り、レイシーは呟く。
「どんなモノだとしても。お師匠様の傍に、いたかったんです……」
「そうか……」
「す、すみません! 勝手にしんみりしちゃって。さぁ、行きましょう! こっち、こっち!」
そう言って無邪気に手を引く姿は幼い頃と変わらない、あどけない少女のままだった。
そんな少女が、今。師を――城に招き入れた。
◇
玉座に繋がる一枚の扉。
それを勢いよく開けたレイシーは、言い放った。
「お師匠様! さぁ、お入りください!」
師は、追い越しざまにその肩を叩く。
「レイシー、下がっていなさい。この場を去る気が無いのなら、絶えず防壁を張るように」
「でも、お師匠様は!?」
その問いに、柔らかい微笑みが返される。
「……今まで、ありがとう」
「……っ!」
「さぁ、下がれ!!」
声を張り上げると同時に、ヨハンは地を蹴った。
眼前に何が起こったのかと慌てて立ち上がる勇者を捉え、一瞬にして間合いを詰める。
「久しぶりだなぁ、ヒルベルト?」
「なっ――! ヨハン!? お前っ、どうして生きて!?」
「 死 ね 」
――【
ドォオオオンッ……!
話に取りあうことなく、次々と凄まじい攻撃が浴びせられる。
一度、二度、三度――
「……ッ!!」
三度目の攻撃を喰らう直前、ヒルベルトは身を翻して後方に距離を取った。
すかさず剣を構えるが、再生したばかりの身体では爆発の反動に耐え切れず、膝をつく。鎧もなにも無い、如何にも王族といった感じの華美な刺繍に彩られた服は破け、活発そうに切り揃えられた金髪は水を浴びたライオンのように乱れていた。
「ヨハンッ……貴様!!」
「チッ、仕留め損ねたか。三回復活の呪文はこれだから……」
「俺を殺しに来たのか!?」
「見りゃあわかるだろ。心当たり、無いとは言わせないぜ?」
「くそっ! お前なんかに、この俺がッ……!!」
忌々しげに治りかけの傷をさすっていたヒルベルトだったが、何を思ったか立ち上がり、にやりと笑みを浮かべる。
「ははっ、まぁいい。死んだと思っていたお前が生きていたなら好都合。魔王城の金庫の鍵……知っているんだろう? 魔王を最後に封印したのは、お前だから。さぁ、何処にあるのか教えてもらおうか」
「誰がお前なんかに教えるか。どれだけ拷問されたって答えなかったんだ。今更教えるわけないだろう?」
その言葉に反応したのは、ヒルベルトの脇に呆然と控えていた王妃アメリアだった。
「ヨハン……うそ……本物なの?」
本物だ、とは言い難い。
「そんな……! よかった……生きてたのね? よかった、よかった……!! うぅっ……!」
手にしていた茶器を取りこぼし、その場に泣き崩れる。
「うぅ……死んでしまったと思ってた……ごめんなさい。あの日、あの不当な裁判の日。法廷に駆けつけられなくてごめんなさい。あなたの無実を証明できなくて、ごめんなさい……」
(謝るなよ、アメリア……)
ヨハンが王妃姦淫罪として裁判にかけられる当日。アメリアさえ法廷に来て『ヨハンは罪人ではない』と証言していれば、結果はひっくり返っていただろう。
だが、アメリアは来なかった。来れなかったのだ。
出産予定日を間近に控え、王都から離れた避暑地に軟禁されていたのだから。
無論、ヒルベルトの命で。
裁判はアメリアが絶対に駆けつけられないように、異例の速さで行われた。
それくらい、既に調べ尽くしてある。
だから、ヨハンの復讐対象はヒルベルトだけだった。
「チッ。アメリアの奴、未だにお前のことが忘れられないとかなんとか抜かしやがって。誰の嫁だと思ってんだ!? おい、アメリア!!」
ヨハンの生存を泣いて喜ぶアメリアに、ヒルベルトが激怒する。
「チッ、だんまりかよ。だが、今日で晴れてお別れできるなぁ? なにせ、俺はまだ死んでいないのだから!!」
ヒルベルトが、神剣を構えた。
かつて魔王を討伐する際に用いた神剣。それはその昔、パーティの仲間と共に苦労して手に入れた、世界を両断する力を持つと言われる逸品だ。
ああ見えて剣の腕は一流だった勇者。王となってからも我が身可愛さ故に敵を作り過ぎていたのか、鍛錬だけは怠っていなかったようだ。
「つくづく厄介な奴……」
(だが、あと一回だ。復活の呪文の
「この剣の神速を前にして、とろくせー魔術師なんぞゴミクズ同然だ。とっ捕まえて、金庫の鍵の在り処を吐かせてやる……!」
神剣を構えて踏み込んでくるヒルベルトに、相討ち覚悟で一撃を加える――
ヨハンは、覚悟していた。
それさえできれば、自身の復讐は為されるのだから。
これ以上、民も苦しまない。アメリアも苦しまない。そして、王妃であるアメリアがトップとなって国を再興させたなら、きっとレイシーにとっても暮らしやすい世界が訪れるだろう。
そう、信じているから。
「ヒルベルト……お前だけは、ここで仕留める!」
「「 死 ね !!」」
踏み込んだヒルベルトと同時に、自身の目の前で爆発を起こした。
(接近しなきゃ、剣は使えないからな!!)
だが――
「……ッ!?」
ヨハンに斬り込む直前、ヒルベルトはそれに気づき、爆風を利用して引き返した。
半身が爆発に巻き込まれた身体を抑え、同様に負傷しているヨハンを忌々しげに見据える。
「はぁ……てめぇ……! 心中するつもりか……!」
「……だったらどうした」
自ら回復魔法で火傷を治し、再び立ち上がろうとするヨハン。
ヒルベルトは、ふたりの攻撃範囲外に退避していたアメリアに視線を向けた。
そして――
「癒せ、アメリア!!」
「……っ!?」
「何をしている!? 回復魔法だ!!」
その問いに、アメリアは――
「……し、ません」
「は?」
「……癒しません。私はもう、あなたを癒しません!!」
「お前、妻のくせに! 俺を裏切るのか!?」
「私は……私は! 好きであなたの妃になったんじゃない!!」
「なに!?」
「もとより私は、あなたを好きなわけじゃなかった! 無理矢理関係を迫られていただけ。魔王を倒したら、すぐにでも別れるつもりでいたわ。でも魔王を倒した時、私のお腹にはすでに子どもがいた。私はその子の為に、あなたの妃になるしかなかったのよ……!」
(アメリア……)
「子どもが旅に耐えられるくらい大きくなったら、城を出て逃げるつもりだった。なのにあなたは! まるで図ったようなタイミングで第二子、第三子を……!」
「ハッ、気づいてたのか」
まるで『孕ませちまえばこっちのもんだからなぁ?』と言わんばかりの顔に、虫唾が走る。
「私はイヤだって言ったのに! でも、それでも! 子どもたちを置いて逃げることなんてできなかった!!」
乱れた呼吸を落ち着けて、アメリアは言い放つ。
「最近は私だけでなく、子ども達にまで暴力を振るって……! もしあなたがここで死んでくれるなら……願ってもないわ、ヒルベルト」
「貴様ぁ!」
その瞬間。
ヒルベルトの剣が、アメリアに矛先を向けた。
(なに!?)
「避けろ、アメリア!!」
神剣が腹部を貫く音が聞こえる。
身体が、勝手に動いていた。
「ヨハン!? どうして……!?」
「知るかよ……」
「なんで……? 私は、あなたを裏切ったのに……」
「……知ってる。でも、身体が勝手に動いたんだから、仕方ない……だろ……」
(ああ、これはヤバイ。腹が内臓付近まですっぱりイってるな……血が止まらない。意識が薄れて、回復魔法が間に合わない……くそっ……)
どうして。なんで。
ここまでなのか?
ヨハンは、最期の力を振り絞ってレイシーに視線を移す。
(レイシー……逃げろ……お前だけでも……)
「ヨハン!!」
「お師匠様ぁ!!」
ふたりが駆け寄ってくるより先に、そうはさせまいと爆炎の魔法を放った。
もう、目が見えない。
この広範囲の魔法で、ヒルベルトがやられてくれれば……
レイシーが、危険なこの場から遠ざかってくれれば……
そう願った一撃だった。
最期の力で、炎を炸裂させる。
――【終焉の業火】
「……っ!!」
ヒルベルトは咄嗟に神剣を盾にして身を守った。
業火の熱から主を守り、その刀身を崩れさせていく神剣。
爆風に見舞われる玉座の間で、ヒルベルトが次に目を開けると――
爆炎の中から、ゆらりと人影が起き上がる。
「なに!? ヨハン、てめぇ……まだ生きて――!?」
ヒルベルトの問いに――
「ククク……はははは! ようやくか。ようやっと出られたわ……」
赤い瞳が、笑った。
「久しいなぁ、勇者?」
◇
「なっ――! 魔王!?」
レイシーが思わず声をあげると、ヒルベルトとアメリアは驚いたようにヨハンを見た。
「ヨハン……やっぱり封印を解いてやがったのか!」
「うそ……あの悪魔がヨハンの身体に乗り移っているっていうの!? でも、どうして!? ヨハンにとっても魔王は憎かったはず! 彼には何のメリットも――」
「俺を殺すためならなんだってする。そういうことだろ。だが、それでどうして貴様がヨハンを庇うんだ? あいつはお前にとって封印を施した仇だろ?」
その問いに、魔王は傷を再生させながら笑う。
「なぁに、こいつに死なれると、私も少々困るのでなぁ?」
「チッ、融合してやがんのか。だが、これでどっちも殺す手間が省けた」
刃毀れした剣を再び構えたヒルベルト。
それを見た魔王は機嫌良さそうに両手を広げた。
「ほう、ほうほう! 勇者、貴様……なんと醜い魂の色だ! それに、この城内に満ちる邪なる元素の香しさといったら……実に心地よい!」
そうして、ゆらりと首を傾げてヒルベルトを伺う。
「勇者よ、私と契約しないか?」
「は?」
「私は、その濁りきった貴様の魂ですらコレクションに加えたいと思っているのだ。ある意味では、これ以上ないほどの珍品だからなぁ? それに、この魔術師はいかんせん心根が清すぎるのだ。正直、居心地が悪い。それに比べて貴様はどうだ? なんとも居心地の良さそうな身体ではないか! 禍々しいことこの上ない!」
そのやり取りに、レイシーは固まった。
(え、うそ……勇者と魔王が契約!? そんなことになったら、もう誰にも止められな――お師匠様の復讐が、叶えられない!)
「そのくたばりかけの神剣、もってあと一撃だろう? そんなもの、私にかかれば防ぐなり躱すなり何とでもできよう。それに、今の私はヨハンよりも数倍魔力がみなぎっている。この城には貴様が生み出した邪なる元素が満ちているからなぁ? よって貴様に勝ち目はない」
「くっ……」
「さぁ! 見逃して欲しくば我が手を取れ。悪いようにはせんぞ?」
(待って! このままだとヒルベルトが生き延びちゃう!! あの人はきっと……生き延びる為なら誰だって傷つける! なんだってする!!)
レイシーが思わず防壁を解いて『やめろ』と駆け出しそうになっていると、ヒルベルトは予想に反し、忌々しげに魔王を睨めつけた。
「とかなんとか言って、どうせ俺の身体も乗っ取って、好き勝手使うつもりなんだろう?」
「クク……当たり前だ。だが、貴様が隙さえ見せぬなら、再び身体を動かせるチャンスが得られる。この場を生き残れるのだぞ? どうだ? 試してみる価値が――」
「断る!!」
(……!?)
「勇者が魔王と契約だと!? ふざけんのも大概にしろ! 俺の身体は! 俺のものだ!!」
「ほう、ほうほう……私を拒むか……」
ふむり、と口元に手を当てた魔王は、最大の魔力を込めて漆黒の衝撃波を放った。
「では、 死 ね 」
(……っ!!)
凄まじい轟音を立てながら城の壁が、天井が崩れていく。
ヒルベルトは手にした神剣の最後の力を振り絞らせて、天高く掲げた。
「神剣解放! 究極奥義――」
「甘いわ」
衝撃波に隠れるようにして接近していた魔王は、ヒルベルトまであと一歩という距離に迫ると、意識を手放した。
「魔術師よ。とどめはくれてやる」
何故目が覚めたのかはわからない。
自分は確かに最後の一撃ともいえる爆炎の魔法を放ったはずだ。それに巻き込まれ、五体が無事でいられることなどありえるのだろうか。
だが、目の前には憎き仇敵の姿があった。
「このときを、待っていた……!」
彼にできる最大の攻撃。究極奥義を放とうとする元勇者、ヒルベルト。
今の奴は、隙だらけだ。
「ヒルベルト……この期に及んで究極奥義だなんて、血迷ったのか?」
「これで、お前もろとも魔王を滅ぼしてやる!」
ただ目の前の敵を屠ることしか見えていないヒルベルトに、ため息が出る。
「お前、本当に最後までわかってなかったんだな? 究極奥義を放つには力をためる必要がある。神剣を解放するまでに生じるその隙を、今まで誰が補っていたんだと思う?」
「なに?」
「パーティの、仲間だよ」
「貴様ごときが、俺に説教を垂れるな! 死ね、ヨハン!」
「死ぬのはお前だよ」
内ポケットから短剣を取り出したヨハンは、剣を掲げたままの勇者の胸元にそれを突き立てた。
「がはっ……!」
「三回目だ。じゃあな、ヒルベルト」
主がこと切れ、神剣は光を失った。
一部始終を見ていたレイシーとアメリアが、心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「ヨハン……!」
(アメリア……)
瞳に涙を浮かべたアメリアが、ヨハンに触れる直前、立ち止まった。
「ありがとう、ヨハン。ヒルベルトを倒してくれて。こんなに傷ついてまで……あなたはやっぱり、何年経っても優しいままなのね?」
「別に、アメリアの為じゃない」
「そういう素直じゃないところも、変わらないのね?」
「…………」
「ねぇ、ヨハン。何を今更って思うかもしれないけれど。私は今でもあなたのことが――」
内に秘めた真実を語るその言葉を聞き流し、ヨハンは弟子の方へ歩み出した。
くるりと振り返ると、一瞬アメリアを見やる。
「アメリア。何もかも忘れて、これからは自由に生きろ」
「え……?」
「その気持ちには、応えられない」
そうして、少し離れたところから様子を見守っていた弟子に、穏やかな笑みを見せた。
「俺には、レイシーがいるから」
「……お師匠様……」
自分を見つめる瞳がどんどんと涙で滲み、『ああ、泣くなよ』と心の中で声をかける。
しかし、次の瞬間。頭の中に声が響いた。
『このときを、待っていた……』
(なん、だ……? この声……)
まさか魔王が?
だが、何故今になって……
『ああ、なんと美しい魂の輝きか』
なんのことを言っている?
『人生最大の幸福。その瞬間を切り取ることこそ、我が望み……!』
切り取る? 何を?
(まさか――!)
思い至ったとき。
身体は既にいうことを聞かなくなっていた。
(ダメだ、レイシー! 来るな!!)
「お師匠様……!」
レイシーが、駆け寄ってくる。
今が一番幸せだという表情で――
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